たとえ今は負けていたとしても [ 3/9 ]


「なっ、成宮先輩!」


気になっていた後輩の女の子から声をかけられて、一瞬、あ、これ告白じゃね?と思った数分前の自分がアホらしく思う。


「原田先輩に、これ…っ渡してもらえませんか?!」


顔を真っ赤にさせて、恥ずかしそうに俺に言う彼女は、以前俺に告白してきたブラスバンド部の子の友達だ。その子の付き添いをしていた時から、俺が軽く気になっていた女の子・綾華。よく野球部の練習も見に来ていたから、きっと俺に気があるんだとばかり思っていた。

だからいつかきっと、俺のことが好きになるだろうって。告白しに来るだろうって。そう高を括って俺はずっと分かりにくいアプローチをかけてきたというのに。彼女の想い人は俺ではなく、よりによって雅さんだった。


「趣味悪いね、綾華」


ショックを隠せない俺は、上手く隠すために苦し紛れに出した一言が、それだった。バカじゃねーの。趣味が悪いとか、そんなこと言って。


「趣味悪くなんてないです!原田先輩は見た目は少し怖いですが、本当に優しい、いい方なんです」


『そのことは私なんかに言われなくたって、成宮先輩が一番理解されてますよね、すみません』と苦笑いする綾華に、俺はどうしようもなく恥ずかしいと思った。

そうだ、一番わかっている。雅さんがいかにすごい人で、優しい人で、いい人かなんて。彼女よりも、俺が一番よく知ってる。趣味なんか悪くない。むしろ趣味がいいと言っていいだろう。…俺なんかよりも、雅さんの方が何倍も、何十倍もいい人だ。ムキになって言った綾華を見て、ああ、彼女は本気で好きなんだと思った。


「……いいよ」
「え?」
「渡しておいてあげるよ。この俺が」


『有難く思ってよね』と彼女に言うと、『はい!ありがとうございます!』とパアっと明るい笑顔になって、お礼を言う。そんな素直な彼女に、どうしようもなく恋焦がれたんだ。そんな彼女は、俺じゃない、他の男を好きになった。しかも、それは俺が到底敵いもしない、すごい人。


「実は成宮先輩、優しいんですね」
「…当ったり前じゃん!何?それ、今更だから!」


いつもの調子を装って、空元気で成宮鳴を演じた。

俺は、俺にしかなれない。雅さん以上の男になるために、また一から努力しよう。そして、いつか。綾華に、振り向いてもらえるように。

だから今は。


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