サヨナラ負けの放課後 [ 6/9 ]

『ごめんね』と言われたのはほんの数分前のことだった。
あれ、こんなはずじゃなかったんだけどな。そう思いながら、俺は一人教室に佇んでいた。この間、大事な準決勝の試合でサヨナラホームランを打って勝ったはずなのに。


「あれ、鳴?」


そこに現れたのは、幼馴染…と言うか、腐れ縁の綾華で。正直、今は会いたくなかった。腐れ縁だからとか、そんな理由じゃない。なぜかは分からないけど、どうしようもなく。


「何で逃げるの」


会いたくなかった。
だから俺は、教室から出ようとしたにもかかわらず、綾華によって阻止される。何で俺のゆく道を邪魔するんだよ、なんていつもの俺らしいことは言えず、ただ下を向いていて。きっと長い付き合いの綾華ならば、わかったんじゃないだろうか。この俺の変化に。


「ちょっと、鳴?聞いてる?」


思い返せば、いつだって綾華はタイミングが良かった。試合で負けた帰り道も、ナイスタイミングって言わんばかりのところで出くわしたり、稲実にスカウトされて入学が決まった時も、一番に知らせたのは親じゃなく、その時の彼女でもなく、綾華だった。

けど俺は、なぜか綾華と付き合いたいとは思ったことがなかった。彼女に対しては、恋愛感情じゃないのだ。もっとこう、何か。何か違った感情だった。分かりやすいとは言われたが、簡単に俺の心を見透かしたように汲み取る彼女に、うっとおしいとか近寄らないでほしいと思った時もあった。けど、彼女が隣にいない、傍にいないという時間は、想像ができなくて。突き放すに突き放せなかった。だからこそ、


「………もしかして、茉祐子?」


こんなカッコ悪い姿も見られてしまう羽目になるんだ。
そんなことも分かっているのに、俺はいつまでたっても、同じことの繰り返し。


「…何でわかんだよ」
「…だって鳴のことだし」


『なんて言えたらカッコいいんだけどね』と苦笑いしながら言う綾華。

不覚にもときめいてしまった俺の時間を返せ、なんて思いながらも、綾華は黙って俺を見たまま、視線を話そうとはしなかった。きっと、知っていたんだ。この結末を。茉祐子は、綾華の友人だからだ。きっと、茉祐子に相談されてでもいたのだろう。だから俺を心配したからか、憐れむためか、こうしてタイミングよく来ることができたのだ。


「茉祐子、留学中の彼氏がいるのよ。有名な話よ?」
「たかだか留学だろ?!将来有望株の俺よりいいっての?!」


『見る目ないなあ!バッカじゃねーの?!』なんて大きな声で言うも、綾華は決して否定も肯定もしなかった。

そうだ。綾華はこういうやつだ。いつも俺が気が済むまで、隣にいて。慰めもせず、上辺だけの同調もせず。ただひたすら、俺の愚痴を聞く。


「茉祐子も言ってたよ。『惜しいことをしちゃってるね』って」
「当たり前!」
「ね。ほんと茉祐子、見る目ないよ」


……その言葉に、俺は綾華を見た。『茉祐子、見る目ないよ』と。綾華はそう言った。確かに、そう言ったんだ。


「あ、そうそう。私ね、明日試合なの。気晴らしに思いっきり声出しにさ!応援に来てよ!」


綾華が笑う。
そうだ。いつだってこの笑顔にオイラは、励まされてきたんだ。綾華の笑顔に、オイラはまた再びにやりと笑って、

『仕方ねえな。オイラが応援に行くんだから、ぜってー勝たなきゃ承知しねえ!』

そう言ってオイラたちは別々の道に別れて行った。





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