思いやりはすべて君のために [ 5/9 ]
「沢村くんに対して酷すぎない?」
中学の頃から付き合ってる彼女、桐沢綾華にそう言われたのは、正直心外だ。『沢村に対して酷すぎない?』という言葉。沢村に優しくする価値はないと本気でそう思っている。世の中頑張ればどうとにでもなる、と思っているかのようなあのお気楽熱血馬鹿はあんな扱いで十分だ。
…しかし、
「おい、何で綾華が沢村を知ってんだよ」
「え?言ってなかった?沢村くんとは心の友だよ」
のほほんと笑って、さも当たり前じゃんと言うかのような。そんな口調で告げられたのはそんな軽くいってほしくなかった事実で。まさか自分の彼女が、俺の知らない所で沢村と接点を持っていて、しかもなおかつ心の友なんか言いやがる。この事実をどう受け止めていいのか、いや。まずそもそも受け止めるというところまでに至っていない。
…嫉妬で狂いそうだ。
この俺の彼女はきっと、俺がどれだけ好きか、愛してるかを知らない。気付いていないと思う。だが、野球中心の俺は、できる限り世間一般的な恋人と言うやつがやるものをしようとは心がけている。いや、俺がしたいからしているのだが。いつも、電話もメールも俺からしていることを彼女は気付いているのだろうか。
彼女は俺に気を使ってきっとしていないのだろう。だが、愛しい彼女から連絡してほしくないやつがどこにいるのだろうか。そんなことも言うことはできない。なんだかんだ言って構ってやれないし、不安にさせているのは俺だ。我慢させているのも知っている。けど、
「沢村くんとはメル友なの」
「……へえ?」
たぶん沢村からしているのだろうが、気に食わない。
当の彼女は俺がこんなことを考えていると言うことさえも、察していないのだろうけれど。…だからこそ、腹ただしくて仕方がない。俺以外の他の男を思い浮かべて、そんな笑顔になるな。そんな醜い男の嫉妬を、彼女には知ってほしくないと思う半面、気付け、とも思ってしまう。そんな悪循環を抱いていることすらも、彼女は気付いていないのだろう。
「次の試合、スタメンなんだってね!」
「…沢村から?」
「そう!やっと信二の活躍が見れるんだよ!私、すごい嬉しくって!」
俺から言おうと思っていたことさえも、もうすでに彼女に伝わっていて。嬉しいような、嬉しくないような。そんな気持ちになる。ああ、もう。いい加減、気付け。
「―――イライラしてるでしょ、信二」
「あ?」
ニコニコいつも通り笑いながら言う、彼女に俺は苛立ちを彼女に向けることになった。どういう神経をしていたら、そんな笑って言える?そうとも思ってしまって。俺は、馬鹿にされているのか?
「信二が悪いんだよ。私に何も言ってくれないから」
「…はぁ?」
『信二が私の何気ないことを聞いてくれるように、私だって、信二の何気ないことを聞きたいの』と。綾華はそう言った。そう言えばそうだった。いつも俺は彼女の話を聞くだけで、俺の報告はしていなかった。綾華のことが知りたくて、聞かなきゃいけないと思って。
「沢村くんからね、信二がこうだああだっていっつも報告受けるんだよ」
「…綾華」
「だって信二、メールはしてくれるけどいっつも私のことばっかり聞くんだもん。私だって信二のこと知りたいんだよ」
綾華はいつものようにまた、ニコニコとして。俺に言う。ああ、俺。
「まあ、沢村に対して冷てえのは仕方ねえな」
「え?」
―――思いやりは全て、君のために。