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「お初にお目にかかります」
私が恭しく深々と礼をしたのが、彼女にとっては吃驚したのか、
「え…っあ、あの…!」
と動揺していた。
…今はまだ、彼の婚約者。
だから、こうしているだけ。
そんな彼女の隣をふと見れば、不満そうな顔の彼。
「…大丈夫です、もう、帰りますから」
そんなに私は、貴方にとって嫌な存在ですか?
辛い。
辛かった。
私と、目も合わせてもらえない。
「私、ST☆RISH作曲家の七海 春歌です…!」
「ご丁寧にありがとうございます。…速水 綾華と申します。身分を隠すこと、お許しくださいませ」
綺麗な金髪系のボブの、女の子。
おっとり系で性格も、すごくよさそうな。
―――こんな女の子があんな、素敵な曲を書けるなんて。
無駄な情報は流してはダメ。
どんなに信用のおける人間にも。
弱みを見せたら、負け。
どんどん、暗く澱んでいく私の心。
どんどん、進んでいく時間。
「綾華、何しに来たんだい?」
私の名を覚えてもらえているだけマシだと思う。
けれど、『何しに来たんだい?』
その言葉には、『なんでここに来たんだ』っていう意味が含まれている。
…そんなことを言われたとしても、私には、やるべきことがある。
だから。
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