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「綾華お嬢様、どちらに?今すぐに車を…」
私専用のお抱えの運転手に見つかってしまった。
誰にも内緒で出ようとしていたのだが。
「…では、○○駅まで」
「いえ、ご要望の場所までお送りいたしますよ」
「それは大丈夫。私、今日は少し歩きたい気分なの」
「…そうですか」
不振がられただろうか。
けれど、見つかるわけにはいかない。
車に乗り込み、私は財布を確認する。
財布の中には、普通の私と同じ年代の女の子が持つような金額じゃないお金が入っている。
郵便局に行って、入れておこう。
そう思いながらボーっとしていると、指定した○○駅に着き、私はお礼を言って駅に向かう。
「綾華お嬢様。お気をつけて」
「…はい」
ちょっと行き先を言わなかったことに罪悪感を覚えつつも、私は歩く足を止めなかった。
…すべてを、私は終わらす。
終わらせなきゃいけないって、そう思ってる。
前に言われたの。
『…アイツはやっと自分のすべきこと、自分の存在意義を見いだせた。…綾華さんには申し訳ないのだが、もし…もしその時が来たら…』
誠一郎様が言いたいことはわかる。
“婚約解消”
アイドルたるもの、芸能人たるもの、そういった色恋話はタブー。
いくらデビュー前に、当方の親同士が決めた関係であっても、私とのこの関係が彼の人生を狂わせる材料となるかもしれないのだ。
まだ、私たちの関係が公になっていない。
その、公になっていないうちに、消しておきたい。
弟思いの誠一郎様のことだから、そう考えたのだろう。
「…今が、その時だわ」
ベストな時期だと思う。
喜ばしいことなのかどうかはわからないが、丁度、別の家から婚約話が持ちかかっていたんだ。
神宮寺と同等か、もしくはちょっと格下か、それくらいの家。
それを、引き受ければいい。
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