10:Good-bye my prince
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そう言って私はこの寮を離れた。
私は後悔など全くしていない。
―――と言えば嘘になるが、心は非常に穏やかになっていた。
彼の役に立てるという、何とも矛盾した愛情に酔っていたのだろう。
「…やはりこちらでしたか、お嬢様」
「…お祖母様には、内緒にしていてくださいね」
「…本当に、これでよかったのですか?綾華様」
私の考えなど、安易すぎて誰も見破ることができるのかもしれない。
けれどね。
私だって、役立たずになりたくなくって必死で考えているの。
私だってどうやったら、彼のためになるか。
だから、
「…よかったの、これで」
矛盾していると言われても。
おかしいと言われても。
私はこれでいいって思ってる。
だから、いいじゃない。
「…帰りましょう、お嬢様」
「ええ」
もう、此処には用事はないのだから。
そう言わなかったけれど、心でつぶやいて。
私は車に乗り込み、外を見る。
彼には、あの七海さんっていう女の子がいる。
彼女が彼を、支えてくれる。
私はもう、用済みでいらないの。
彼の夢を、叶えて差し上げたいと。
幼き私が思ったあの願いを。
今こそ、叶えられる。
その時が来たと言うのに。
どうして私はこんなにも、悲鳴をあげているのだろう。
レンさんがいる寮が離れて行くたび、私は涙があふれる。
ああ、やはり。
この心にある恋心は、一生消えてくれることはないのでしょう。
どうか、お元気で。
レンさん。
私の、王子様でした。
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