申し訳ないけれど。クリスに会う勇気はない。都合良く、彼の前に出る勇気は私には持ち合わせていない。御幸くんも同じ気持ちなのだろうけれど、静かに私たちの会話を聞いている。後輩だから気を使っているのだろう。…いや、伊佐敷くんだからかな。そう思いながらも、伊佐敷くんは眉間に皺を寄せながら私に説教の如く、言う。


「マジでいい加減にしろよ、桐沢」
「それは、伊佐敷くんの方でしょう?」
「あ?」
「いい加減にって言われても、会うつもりはないの」


『会え』と言われて会うものじゃない。会いたいと思わないのに、なぜ会わなきゃいけないの。そう思いながら、私も若干キレ気味で言う。しつこい。こういうお節介なところは本当変わらないんだね。そう思いながらも、もう強行突破で帰ろうとした。それでも、私の腕を掴んで離さない伊佐敷くん。


「おい!待てよ!桐沢!」


痛いぐらいに掴まれて。
私ももう、ブチ切れだった。


「もういい加減にして!どんな顔をして会えって言うのよ!?」
「あ゛あ?!」
「私はっ!クリスの隣に立つ資格ないの!」


どうして察してくれないの。まあ、分かってくれと言う方がおかしい話なのだが。でも、再確認した。口に出して、余計に。私は、クリスの隣に立つ資格ない。自分の口から出して、実感するなんて、情けない。本当に、情けない。でも、事実だ。真実なんだよ。私は会うためにここに来たんじゃない。それも事実だ。けれど、


「それがどうした!」
「…っそれがって…」
「それはテメェの意見だろうがよ!」


伊佐敷くんはそう言う人だった。
私の意見が正しかろうと間違っていようと、覆す。自分の意見をちゃんと言う人だ。気を使う、なんてことない。いつでも真っ直ぐで、直球だった。クリスと喧嘩した時も、仲を取り持ってくれたのは伊佐敷くんだった。


『クリスと喧嘩したぁ?!』
『そう、もういいの。…どうせ私の我儘から始まったことだし…』
『…来い』
『えっ』


そう言って連れて行かれたのはクリスの元。クリスは喧嘩を長引かせるような性格じゃなかった。でも、私が怒りを露わにしてしまうから長引くだけで。


『ほら』
『…っ』
『言わなきゃ、クリスだって地蔵じゃねえんだからわかんねえよ』
『地蔵って…』


上手く言葉にできない私たちの中を修復してくれるのは、彼だった。


「クリスは違ぇんだよ!ずっと、桐沢からの連絡待ってんだよ!」
「…う、そでしょ…」
「こんなクソつまらねえ嘘言ってどうすんだよ!ウケねえだろうがよ!」
「…っそうだけど!」


信じられなかった。伊佐敷くんが嘘を言う人だとは思っていない。ただ、嘘だと思いたかった、の間違いかもしれない。だって、誰がこんな私からの連絡を待つと言うの。卒業式の日に、一方的に別れを告げたような女だよ?何も言わずにただ、別れの言葉だけを並べて、すぐに京都に逃げたような女だよ?嘘でしょ、って思うよ。


「残念かもしれないけど桐沢先輩、それマジの話っすよ」


御幸くんまでそう言う。


「クリス先輩はマジで桐沢先輩を待ってますよ」


何で…何で、そんなことを言うの。今度は伊佐敷くんや御幸くんのせいにして。私はまた逃げようとする。本当に卑怯者だ。みんなみんな。嫌なことがあったら人のせいにして。私は正しいと思いこんで、逃げる。本当に卑怯な人間だ。私はただ俯いて涙を堪えるのに必死だ。


「…知ってますか?桐沢先輩」
「…っな、に…」
「クリス先輩の原動力は、今でも桐沢先輩っすよ」
「…っやだ、止めてよ…」


伊佐敷くんよりも、こうジワリジワリとくる御幸くんの方が堪える。どうしてそこまで私を合わせようとするのよ。私はもう、緩くなっていた掴まれた腕を思いっきり振り払って走って逃げる。


「おい……っ!」


私だって陸上部だ。遅くはない。逃げようとして。
でも、再び私の腕は掴まれる。






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