「…知らないよ。連絡取ってないもの」


正直言って、会うとは思わなかった。

友人は『えっ、どう言う事?』なんて言う顔をしているけれど、話を聞くだけで、間に入ると言う事はしなかった。それは有難くって。『ごめん。少し話すから、喫茶店かどこか入って待っててくれない?』と私が言えば、『うん、わかった』と言って、素直に目の前の喫茶店に入って行ってくれた。本当に気の使える友人を持って良かったと思ったのは言うまでもない。


「…大学の友達か?」
「うん、そう」
「桐沢、どこに行ったんだっけ」
「京都のR大」
「…そう、か」
「…元気にしてる?伊佐敷くんも、だけど」
「ああ、見ての通りな。…アイツは、クリスは二年から大学で正捕手としてプレーしてっぞ」
「…そう、なんだ」


それを聞いて嬉しくなったのは言うまでもない。
あんなに頑張ってたリハビリが成功したみたいだ。直接会ってないからわからないけれど。元気にしてるんだなあと言うことは分かったから。


「今日は何で青道に?」
「時間あるOBが集まって、後輩扱【しご】きって言う名目で監督に会いにな」
「そう、なんだ…」


嬉しいだろうな、後輩たちも。そう思いながらも、どんどん、見知った顔が訪れて。『純さん?』と声を掛けていく。私の事は知らない人の方が多いだろう。だから、私の事を『純さんの彼女っすか?』なんて言って通り過ぎる人も多い。『バーカ。違うっつーの』なんてあしらいながらも、私の紹介はしなかった。伊佐敷くんなりの私に対する気遣いなのだろう。それは有難かったけれど。もしかしたら。そんな不安が的中する。


「あれ、純さん、何してんすか?」
「御幸?!何で今日来れなかったんじゃねえのかよ!」
「監督が行って来いと言ってくれたので」


苦笑いしながら言う彼は、やっぱりあの“御幸”だった。

プロに入って初めて見た。甲子園出場捕手。ドラフトも史上最高の競り様だったとはニュースで聞いていたけれど。やっぱり結構貫禄が見える。指すが正捕手候補。最近ではスタメン起用だとも聞いたし。…伊達にクリスの代わりに正捕手になったわけじゃないよな。と私も思う。彼の才能は、素人が見てもすごいと思うもの。すると、


「……あれ、」


私の方に視線が来て。


「桐沢先輩、じゃないっすか?」
「え…」


どうして私の名前を知っているの、と言うような私の視線に御幸くんは気付かなかったようだが、正直本気でビックリだ。まさか、私のことを知っているとは思わなかった。


「あ?おい、何で御幸が知ってんだ?紹介したか?」
「あ、いえ。でも結構有名でしたよ、桐沢先輩」
「…そうなの?伊佐敷くん」
「いや、…あーでも何か、思い当たる節は無きにしも非ずだな」
「そっか。そんなに公に付き合ってるつもりはなかったんだけどね」


私は苦笑いしながら伊佐敷くんに言えば、『まあ良い意味でも悪い意味でも注目浴びてたからな』と当時を思い出すかのような伊佐敷くんの発言には、ちょっと詳しく聞きたい、と思ったのだが、まあ聞かないことにした。

私はそろそろお暇しようかな、と思い、『じゃあ、私帰るね』と言えば、『は?』と言われてしまって。え、どう言うこと?と思いながらも、何となく理解はしていた。


「……会うつもりはないから」
「何言ってんだよ、桐沢」
「何言ってんだよって言われても…とにかく会うつもりはないよ、私」


何が言いたいのだろう。そう思うこと自体がもう有り得ないのかもしれないけれど。
私には会おうと言う気持ちはない。






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