断固、拒否反応。 | ナノ

◎6

教室を出れば、月宮 林檎が私に、

「綾華ちゃん…あなた、作曲の経験あるでしょ?」

そう聞いた。
単純に、私は五線譜に書いただけ。
そう、言おうと思ったが、彼女はプロだ。
それが通用するだろうか。

「…過去に、少しだけです。かじった程度ですよ」
「…あなたは、アタシが五線譜を配って、ハルちゃん…七海さんから教科書を借りたけれど、ペラペラっと捲った程度で、一切と言っていいほど見ていなかった。違うかしら?」
「…」

さすが、アイドルといえども、先生だ。
良く生徒のことを見てる。
確かにその通り、私はあまり見なかった。

「…今回、シャイニーから突然あなたの引き受けを聞いたとき、正直驚いたわ。聞けば、隣の進学校の生徒らしいじゃない」
「…そう、ですね」
「シャイニーに何の目的があるのか、正直よくわからなかったけれど…これで理解できたわ」
「…」

やっぱり…。
私は、月宮 林檎に間違えられて体験させられたわけじゃない。
すべては、シャイニング早乙女の陰謀。
ここに呼び出された理由は、何となく理解できた気がする。

「月宮…先生」

けれど、

「何?」

私は、

「シャイニング早乙女のところに連れて行って下さい」

―――彼の思い通りにはいかない。
させない、しないわ。
何のために私は反発して進学校に行ったと思っているの。
私は、もう、作曲は辞めたの。

私はその旨を伝えるために、行く。
月宮 林檎は、『わかったわ』と言って連れてってくれた。

理事長室の前に行けば、私は殴りこむ。

「ちょっと!叔父さん!」

私がそう言って入れば、

「えっ」
「お、叔父さん…?!」

月宮 林檎と、初めにいた日向 龍也。
そして―――。

「…」

無言を貫く彼。
―――あ、この人…HAYATOじゃん…。
そう横眼で確認しつつも、私の怒りは頂点に達しているために、そんなことはどうでもよくて。
ただただ、叔父であるシャイニング早乙女に、

「誰かと思ったら、My Daughter.綾華じゃないですかー」
「『じゃないですかー』じゃないです!一体、どういうことですか!?」
「それはYOUの胸に手を当ててみたらどうですかー?」
「私は確かにシャイニング事務所所属のタレントと報道が出たけれど、実際には話したこともないし、パパラッチが勝手に載せただけです!」
「しかーし!載ったことは事実でーす!」
「私は言いましたよね?!早乙女学園になんて興味ないって!」
「しかーし!MeはYouに早乙女学園に来てほしいのでーす!」
「その話はなくなったはずでしょう?!早乙女学園の入試面接時の歌!あれを作ったら、言わないって!」

それを私が言った瞬間、周囲の人が驚いていた。
『あれ、彼女が作ったのか?!』とか、『綾華ちゃんが…?!』とか。

そうだよ。
紛れもなく、あれは私が作った。
まじめに作曲したのはあれが初めて。
所謂処女作と言うやつだ。

あまりにも両親やこの叔父がしつこかったためにこの条件を飲んだのだ。
『早乙女学園の入試に使う歌を作る』
受験が終わり、結果発表が終わり、それからすぐに作った粗削りの即興曲。

歌詞もアレンジも何もかも。
すべて私が誰の手も借りずに一人で作ったあの曲。
それで私は自由を勝ち得たの。
なのに、

「条件と違います…!」
「綾華、MeはYOUに才能があるからここまで―――」
「私はもう、作曲なんてしない!」

そう言って私は、理事長室を出た。
背後からは、『綾華ちゃん!』と月宮 林檎が私の名を呼んでいた。

ああ、もう。
だから嫌だったのよ。
私は、作曲なんてしない。
したくないのよ。

私から何もかもを奪った、あんなもの。


mae tsugi

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