断固、拒否反応。 | ナノ

◎5

知らぬ間に教室の前にまで流されて着いてきたけれど、

「さあ、綾華ちゃん。自己紹介して」
「いや、だから…!」

弁解する余地もなく、月宮 林檎はそう呼び掛ける。
それに着いて行くしかない私はもうヤケクソだ。

「みんなー!今日話してた体験入学の子よお!桐沢 綾華ちゃん!手違いであと1現しかないけれど、いろいろ教えてあげてね!」

なんて言われて、言われた席に座る。
『なんで今時…?』とか『オープンスクールに来れなかった子?』とか。
私のことを噂しているいろんな話が聞こえてくるが、私はサラっサラ無視。

何が悲しくて、こんなところにいるわけ?
私はそんな問いを自分自身に向ける。

絶対にこれは叔父の仕業だ。
私が、シャイニング事務所の人とゴシップ誌に載ったりしたから。
絶対にそう。
それしか考えられないもの。

そんなことを考えていると、

「ねえ、桐沢さん!」
「え…っ」
「俺、一十木 音也ね!よろしく!」

なんて、挨拶された。
いや、私はよろしくされても困るんだけど…。

そう思いながらも、屈託のない笑顔で言われるもんだから、そんな毒気も抜けさせられ。

「…桐沢 綾華です」

私も自己紹介していた。
馬鹿だ、私は。
なんでこんな学校の生徒なんかに…。

そう思いながらも、進んでいく授業。
その間も、一十木くんは私に話しかけてきてくれて。
『なんで今の時期に来たの?』とか、『作曲志望?それとも、アイドル志望?』とか。

そんなこと考えたこともないし、全くもって興味のない私は適当に『作曲かな』なんて言っておいたけれど、これくらいの社交辞令や嘘は許してほしい。

「さっ、じゃあアイドルコース、作曲コースと問わず、みんな1分以内の曲を作ってみて!」

なんて言う月宮 林檎。
私は関係ないやと周りの子のを見ていたら、『綾華ちゃんもよ?』なんて言って私にペンと五線譜を渡してくる。
嘘、でしょう?

「綾華ちゃんに教科書、見せてあげて?えっと…そうね、七海さん!」
「えっ、あ!はい!」

そう言って手渡された教科書には、可愛らしい女の子の字で“Aクラス 七海 春歌”と書かれていた。
その教科書には作曲のいろはが書かれていた。
だが、親が作曲家だから、幼いころから所謂【いわゆる】英才教育というものを受けて来たから、作曲に関してはこの学校の人以上に知っていると自負している。
そしてわかり切った話ばかり書いてあったので、サラサラっと適当に書いてみた。
小学生くらいのときに考えた曲を少し短縮したものを。

「すごっ、桐沢さんもう書いてる…!」
「…適当だから、あんまり見ないで?」

そしてあんまり騒がないで?
そういった意味も込めて、私は一十木くんに言う。
すると、

「綾華ちゃん、もうできちゃったのお?!」

なんて、やっぱり月宮 林檎が来た。
いやいやいや。

「教科書見て、それで直感と適当なんで…」
「見せてみて?」

あ、やばい。
ダカーポとか、クレッシェンドとかで、クレッシェンドとか、スラーとか。
そんな音楽記号も癖で書いちゃってる…!

そう思った時には遅い。

「…もしかして、綾華ちゃん…」
「…いや、私は…」

いいタイミングでチャイムが鳴り響く。
ああ、よかった!救われた…!
そう思いながら、私は『ありがとうございました』と張り付けた笑みを浮かべて言う。

「…あら、チャイム鳴っちゃったわね。よし、今日の授業はここまで!」

『で、綾華ちゃんは一緒に学園長室ね』と言われて、私は月宮 林檎に着いて行く。
教室に出る前に、七海さんに『ありがとう』と言って返すと、『いえ!お役に立てて嬉しいです』って言ってくれて。
彼女もまた屈託のない笑顔で言ってくれる。

一十木くんも『またね!』と言ってくれて。
『バイバイ』と私も振り返す。

少しだけ、いい人に出会えてよかったな。
そう思った。


mae tsugi

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