愛に成ったらさようなら



「綾華ちゃん」
「…もう、また仁王?」
「またとはなんぜよ」


前々からずっとアプローチをかけてくれてた、ウチの学校で英雄のように称えられているテニス部のレギュラーである仁王雅治。そんな彼が、ここ最近ずっと『綾華ちゃん、好いとうよ』と。いつも愛を囁いてくれている。

初めの頃は、本気じゃないんだろうなと思っていたから、本当にウザいと思っていたけれど。それが何カ月も続けば、心も動いてしまうでしょ。ヒョロッヒョロなのかと思いきや、やはり全国で何度も優勝しているぐらいの強豪であるテニス部に所属して、レギュラーなのだ。やはり日ごろのトレーニングの賜物と言わんばかりの筋肉。ただ単に細いのではないと分かる。また、長い銀髪と言う少しいかつい外見から、ヤンキーなのかと想像するけれど、それさえも忘れさせるようなこの、顔の整いようは本当に罪だと思う。その外見を盾に、今まで何人の女の子をその手中に収めてきたのだろうか。それを聞くのも嫌になるぐらいに。


「ねえ、仁王」
「何ぜよ」
「好き、なんだけど…」
「!ほんまか?!」
「本当だよ。


……―――なんてね」


私がそう言った瞬間に、明らかに落胆の表情を見せた。ああ、やっぱりな。そう思った。これで決定打が出来たな。そう思うと、切なくなった。やっぱり私は、そういう対象としかみられていなかったんだ。そう思うと、一気にこの心にあったものが冷めた。そんな感覚になった。一方の仁王も、『何だよ』と言わんばかりの不機嫌そうな表情で。そりゃそうだよね。あんなに自分の貴重な時間を使ってアプローチしたのにね。結果、いいようにいかなかったんだからそりゃ腹ただしいよね。しかもこんな思わせぶりな事されたんだから。ああ、もう。私の心は冷めていくばかりだ。…本当は期待してた。本気で私のことが好きで、アプローチしてくれてたんじゃないかって。でもやっぱり、そうじゃないんだね。私は決心する。こんな気持ち、忘れてしまおうと。


「ねえ。このラブゲーム。いつになったら終わるの?」
「…だから、何のことぜよ」
「もうとぼけなくてもいいって言ってるのに」


わかってた。仁王が本気で私の事が好きで口説いているんじゃないって。あれだけイケメンで注目浴びるような形【なり】をしているのだ。噂は、飛び交うにきまっている。それは良い噂も、悪い噂も。真実も、真実じゃない噂も。わかってたよ。でも、私が、期待してしまったから。私が、こんな嘘ででっち上げられたラブゲームの甘い罠に引っかかってしまって、解けないから。わかっていたはずなのに、どうしても期待を拭えなかったから。


「どうせ、丸井辺りと賭けでもしてるんでしょ」
「何を言うとる」


『ずっとおまんのことが好きだったんぜよ』とまたも長い銀髪を靡かせて甘い言葉を囁く。そんなの、信用できるわけないじゃない。もう、騙されたくない。これ以上、好きにさせないで。気持ちを膨れ上がらせるようなこと、言わないで。しないで。


「……もう、ゲームセットだよ」


私はそう言うと、その場から立ち去る。愛になったら、さようならするんでしょ?ならもう、さようならだよ。

だって私は、―――あなたが好きだから。




  
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