≪そういや、…綾華すげえな≫
「…聞いた感じ?」
きっと、小湊先輩か伊佐敷先輩から聞いたのだろう。
私がモデルだと言うこと。
御幸が海外のファッション誌、しかも女性誌を見ているなんてこと、絶対にありえないだろうし。
それしか考えられない。
≪ああ。それにウチの球団のスタッフも知ってたし。Cherioだっけ?≫
「そう。まあでも、お小遣い稼ぎだったし」
≪小遣い稼ぎでもすげえじゃん≫
「御幸こそ。メディアはもうメジャー行きをほのめかすようなこと書かれてたりするんでしょう?」
≪何で知ってんの?≫
「ウチの弟が御幸の大ファンなのよ」
≪マジか!綾華弟いたんだな…≫
「まあ、私と付き合ってたってことは知らないんだけどね」
その言葉を私が言えば、『あ、しまった』と思ったのは言うまでもない。
今、この話題は避けなきゃいけなかったのに。
…別に、復縁しようと思って、それを催促しようと思って、電話番号を教えたわけじゃない。
もう一度付き合おうと決めたわけじゃないし、そうするかどうかもわからないけれど。
でも、絶対にもう復縁したくないなんてことは、ないんだ。
自己中心的だと思う。
こんなに自己中な私に、こんな素敵な人、見合わないと思う。
でもね。
≪なあ、綾華≫
「…うん」
≪マジでもう、……ダメなのか?≫
それがどういう意味なのか、わからないフリなんてしない。
ねえ、御幸。
期待してもいいのかな。
私と同じ気持ちだって。
まだ、私のことを好きだって、自意識過剰になってもいいのかな。
期待しても、良いのかな。
私はベッドから起き上がって、決心をする。
……ずっともう、覚悟は決まってたじゃない。
気持ちも、決まってた。
そうでしょう?
「ダメなんかじゃない」
現実から目を逸らさないで。
前を、向いて行くしかないじゃない。
過去なんて、置いて、自分の気持ちのままに。
行動するしか、道は拓【ひら】けない。
≪……え?≫
気持ちに素直になろう、私。
今、彼に抱いている感情は何?
「……―――好き、だよ」
その答えは、ちゃんと。
もう出ているじゃない。
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