綾華がこの場から立ち去り、伊佐敷と小湊は球場に佇んでいた。


「アイツが御幸が愛してやまねえ桐沢か…」


伊佐敷のその言葉に、小湊は笑いを零す。


「意外な子?」
「そうだな、まあ綺麗っちゃあ綺麗だが…」
「お互いに頑固で自己主張激しいからね」


正直に言えば、小湊達三年はあまり彼女の事を知らなかった。
名前は沢村たちが出していたから確かに知っていたが、まさか御幸と付き合ってる彼女の名前だとは思いもしなかった。
まあ、御幸があえて会わせようとしなかったと言う所で気付くべきだったのだが、御幸が誰かと付き合うだなんて予想もしなかったと言うのも理由にある。

だが、彼女が留学してからこの事実は明るみに出た。
倉持と前園が、頼りに来たのだ。
―――『御幸のバカを止めてくれ』と。

自分自身がオーバーワークをし過ぎ、危うくクリスみたいに肩を壊しかねない、と心配して言いに来たのだ。
そこで、発覚した。
彼女が自分に何も言わずに留学したと言う事の他に、その原因に、自分が知らない所で彼女がいじめに遭っていたと言う事に。
そしてそれを気付けなかった自分に腹を立てていたのだ。

そして彼女は旅立つ前のメールで『私の事は、忘れてください』と送っている。
つまりは、『待たなくていい』『あなたのことは私は忘れるから』『別れて』その意味を含んでいた。
御幸はその事実を認めたくなくて、練習に打ち込んでいたのだ。


「あん時のアイツはマジでどうなるかと思ったけどよ」
「本当だよね」
「……まさか、あんなものが出てくるなんざな」


御幸の誕生日の日。
寮に送られてきた小包は、時間指定されているもので。
送り主は、桐沢綾華だった。

きっと留学すると決める前に買っておいたものなんだろう。
中身はバースデーカードと、リストバンド、そしてマフラータオルだった。

『誕生日おめでとう。御幸が生まれてきてくれて、本当に良かった。出会えて、よかったよ。これからも頑張ってね、大好き。御幸がプロになれるように、応援してるから!』

これを見て御幸は柄にもなく泣いていた。
それほどまでに、真剣に好きだったんだとメンバーは思い知った。

そして高校卒業と同時にドラフト1位指名でプロの世界に。


「亮介が見て、どう思ったよ」
「彼女?普通にいい子じゃない?」
「…マジ、御幸とお似合いだと思うんだがな」
「…ま、御幸のとこ行ってみよう」


選手控室に向かっていれば、結城がいた。


「よう、来てたのか。伊佐敷、小湊」
「ああ、そう言う哲もな」
「偶々休みだったもんでな」


結城とも合流して、御幸に会いに行くべく、歩きなれた道のりを歩いていた。
すると、なんてタイミングがいいのか、


「あれ。亮さん、哲さん、純さんじゃないっすか」
「御幸」


トイレから出て来たのは、会いに来た御幸だった。


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