「ふうん。ま、そりゃいいんだけどよ」
「あ、はい」
「ごめんね、伊佐敷マイペースだから」
「んだと?!」


楽しい先輩たちなんだなあ、と言う事は分かった。
これが御幸が三年間一緒に過ごしてきた仲間たちなんだと。

…明るくって楽しい人ばかりで、私の人生なんかとじゃ、比べ物にならないぐらい色濃いもので。
とにかく、御幸が眩しかった。
もう、あの場所に立つ御幸とは本当に、


「遠い人になったんだな…」
「あん?」
「あ、いえ」


しみじみとそう思った。
私なんかじゃ、彼の隣に立つ資格もないけれど、到底隣を歩くこともできないぐらい、大きな人になったんだね。

そう思いながら私は球場全体を見る。
きっともう、来ることはない。
…ここが、御幸の生きる場所。

私は伊佐敷先輩たちと出て行こうとすれば、


「あの…っ!」


と声をかけられる。
そこには、御幸の球団のグッズを持った女の子二人組。
『ほらっ、聞いてみてよ』『ええっ、』なんてずっと後ろで言っていた子たちだ。
意を決したのか、口にした。


「CherioのAyakaさんですよね?!」


“CherioのAyaka”
日本でも名前、売れてるんだなあ、と再確認しながらも、仕事用の笑顔を作って、


「そうです」


と言う。
すると、『うわあ、本物?!』『嬉しすぎる!』なんて言いながら、私にサインを求めてくる。
私は快くサインを引き受け、写真も撮った。


「私のこと知ってくれてて、ありがとう」
「Ayakaさんのことを知らない女子高生いないですよ!もう、憧れです!」
「ふふ、ありがとう。SNSには上げないでね」
「はい!勿論です!」


いい子たちでよかった。
そう思いながらも、伊佐敷先輩や小湊先輩がおられたんだと思い出し、私はその子たちにさようならを言って、彼らの元に戻る。
すると、


「なんだあ?お前、有名なのか?」
「…いいえ?」
「隠してるでしょ、何か」
「隠す必要もないじゃないですか」
「……御幸は知ってんのか?」
「さあ?どうでしょう。日本ではそんなに有名だとは私は思ってないですから」
「……」


ああ、もう。
ややこしいことになったな、と思いながらもあの二人組の声がまだ聞こえる。

『帰国してるって言う噂は本当だったんだね!』
『びっくりだよね!けど、日本の雑誌にも後々モデルデビューするのかもね!』
『楽しみ〜!』

……まさか、日本でこれほどまでに私の名前が売れているとは思ってなかったから、私こそびっくりしているんだ。
思いもよらない、誤算。

嬉しくないことはない。
逆に嬉しい。
でも、戸惑う。
こんなにも、周りは私のことを知っているんだと思ったら、少し怖い。
普通の生活を送ることはできるのだろうかと。




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