「Ayakaさん。あなたはCherio史上最年少で表紙を飾り、パリコレにも史上最速で進出している。老舗ブランドのイメージモデルにだって起用されたりと、あなたはモデルを辞めるべきじゃない。才能がある」


確かに、Cherio出身のモデルは世界を股にかけて活躍するモデルが多い。
だが私の場合は留学先のホームステイ先の子供さんにモデルがいたからだ。
いわゆる、コネから始まったもの。
それがなければ、私はCherioの読者モデルはおろか、モデルにはなれなかったと思う。

まあ、実際に日本に帰ると決めて、Cherioを卒業するときには卒業記念として10数ページを頂いた。
そしてその最終号は過去最大の売り上げ、発行部数を誇った。
『あなたはモデルを続けるべきよ』とCherio編集部のみんなからも言われたことは記憶に新しい。
でも私も知っている。
経験をしたからこそ、わかっている。
この世界は甘くないと。


「今まで私は、留学期間の小遣い稼ぎ、という甘い考えでモデルをしていました。そんな奴に、本業でモデルが出来るとは思えません」
「“今までは”そうだったかもしれません。けど、これからはわかりませんよ」


…案外しぶとい人だな、この人。
一体私の何が気に入ってこんなことを言っているのかが分からない。


「Ayakaさんが帰国していることを掴んでいるのはまだあまり知られていませんが、いつかは大きくなる時が来るはずです。そうしたら、契約を結ぼうとしてくる芸能事務所はたくさんあるはずですよ」


つまりは、私のここが気に入っているから所属して欲しい、ではなく、Cherio出身のモデルというブランドが欲しいだけ。
そりゃ、恰好のいいネタだものね。
アホらし。
そう思いながらも、やんわりと断り続けていた。
でも、相手は引いてはくれない。


「…なら、こうはどうですか?今は私も帰国したばかりで仕事をしようという気にはまだなれていません。もしも、またモデル活動をする、ということになったら、御社で所属契約させて頂くことを前向きに考えさせていただく、ということで」


つまりは他の事務所に私を取られたくないということ。
ならば、こうならいいんじゃないの?
そう思って言えば、『仕方ない』というような表情で『わかりました』と了承してくれた。
ああ、もう。
本当に面倒くさいな。
何がいいのか分からない。
連絡先の書いてある名刺を頂き、『ご連絡をお待ちしております』と言われて、解放された。

解放された頃には、お昼前。
ああ、もう。こんなにも時間を割いてしまった。
そう思いながら、私は街をうろつく。
すると、後ろから腕を掴まれる。




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