光の中に走る憂鬱 パコン、パコンっと。 緩やかに鳴りやまないボールが壁にぶつかる音。 今まで私が生きてきた、生易しく緩い日々に似合う中途半端な決まりのない、不特定なリズムを刻むその音。何をこんなにも私は、迷っているのだろうか。もう、答えは決まりきっているはずなのに。 「綾華」 「…久しぶりだね、リョーマ」 声はもうすっかり声変わりを終え、すっかり“大人”になっていた。何年ぶりにその姿を視界に入れるのだろうか。昔の面影を残しながら、それでも大人になっている彼の姿にもう、私の知っている彼はいないように感じた。彼の視線を背中に集めながらも、私はひたすらこの音を止めることはなかった。 「おめでとう。ウィンブルドンへの切符、史上最速最年少なんだってね」 「…別に」 「ま、リョーマなら当然だよね」 君は光の中を全力疾走してる。それは、いつでもだ。常に勝利だけを見て、勝利のためなら、どんな過酷な練習だって惜しまない。そんな彼だからこそ、成しえたこの快挙。その快挙を、私は心から喜べてない。それが、決定打だ。…私は彼のほうを向く。 すると、…彼は、 「…どうして、そんな顔をしてるの」 らしくないよ、と。私がそう言えば、『うるさいよ』と言う彼。…らしくない。そんな顔にさせたのは、…私かな。 楽しい日々。嬉しい日々。苦しかった日々。悲しかった日々。リョーマと過ごした日々すべてが、走馬灯のように私の脳裏からよみがえってくる。少しでも、長く。一日でも長く。彼のとなりにいたかった。 「私には少し、眩しすぎたみたい」 君の隣は、眩しすぎて立てない。 いつからだろう。こんなにも彼の隣に立つことを躊躇するようになったのは。荒削りだったダイヤの原石が、輝きだした。その途端に、私は劣等感を抱き始めた。何も努力してない奴が、偉そうに。そう思うかもしれない。だからこそきっと、君の隣には君に相応しい人が立つ。君の努力と栄光に相応しい、誰かが。その時には、私も君に少しでも眩しいと言ってもらえるように、輝いていたい。 そして、私は君を祝福できるように。 「…次会う時までには、成長した姿を見せられるように努力しておくからね」 「…十分綾華は眩しい」 「…暗闇は取り除けた。だからリョーマは、光の中を突き進んで」 私は心から笑って、彼のこれからにエールを送った。 |