終着点で君に問う


卒業式の後。
同じ制服を着て、二人で駅に続く道を歩く。通い慣れた道。もう、この道を歩くことはないのだと思えば、すごくさびしく感じる。


「何考えてる?綾華」
「…何だろうね」
「俺は、結構寂しいよ」
「…だね。私もそう思ってた」


手を繋いで、お互いにテニスバッグを持って、夕日に照らされ歩く。
付き合ってたって、どこかに遊びに行ったりなんていうイベントは皆無だった。それでも不満なんてなかった。幸せだった。幸せだったよって。素直に言えるから。


「…本当に行くのかい?綾華」
「…行くよ」

「…俺が行かないでって言っても?」


私の手を握り締める手に、力が入ってる。痛いぐらいに。精市だけじゃないんだよ。私だって、精市と別れたくない。離れたくないよ。そんなこと言わないで。行けなくなっちゃうじゃない。


「無理だよ。どっちみち、もう立海には通えないもん」


一緒に電車に乗り込み、隣に座る。そこに会話なんてなかった。それでも、居心地は悪くなくって。ただただ、精市の隣にいるだけで、いられるだけでいい。そう思ってしまうほどに、精市の隣は本当に居心地がいいから。もし私とはなれたら、この隣は、他の誰かのものになってしまうと思ったら、欲張りかもしれないけれど、本当に辛くてたまらない。でも、それでも、


「…精市、着いたよ?」
「綾華こそ、もう過ぎたよ」


お互いにこの時間を終わらせたくなくって、動けずにいる。景色が移り変わってゆく。終いには、終点まで。


「…ねえ、精市」
「…どうした?」
「…このまま、別の世界に行けたらいいのにね」


愛の逃避行。
そう言えば聞こえはいいかもしれない。
けれど、


「…それこそ、無理な話だね。綾華」


そんな非現実的なこと、出来るはずもなくって。子供な私たちには、この現実から逃げることなんて、どうしてもできない。


「…精市」
「…うん」

「私と一緒にいて、少しでも幸せだった?」


終着点で、君に問う。
その答えは、


「――さあ。どうだろうね」


君らしくない、答えだった。


((end))
<SHINOさま主催企画『365日の告白劇』提出作品>




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