企画! | ナノ


▼ 時効だって言って

「…え、」
「お」

マンションのエントランス。都内の高層マンション。さすがに億はしないけど、なかなかの金額。会社の中がいい上司の実家のものだそうで、格安で貸してもらえることになったから私も住めるだけだ。普通だったら住める所じゃない。つい先日引っ越してきたばかりだから、住人にもあんまり会わなかった。けれど興味も関心もなかった。それが今日。

「…カズ、くん…」

会ってしまった。しかも、彼はプロ野球選手の御幸一也だ。私とは、家が近所でよく遊んでもらっていた。でももう何年も会っていなかったから、記憶が薄れていたのだが。

「ビックリした…久しぶりだな、綾華」
「久しぶりだね」

『寿命が二年縮んだぜ』と心臓がある部分を擦る彼。大袈裟だよと笑えば、彼も笑う。変わらない彼に懐かしさを覚える。

「ここに住んでんの?」
「うん。ちょっと前からね」
「…綾華一人?」
「勿論だよ。一緒に住んでくれる相手がいないって」

そう冗談交じりに言っているのに、一方の彼は真面目な顔してる。…そう言えば、カズくんは…。

「…そう言えばおめでとう、カズくん」
「え?」
「もう、知らないと思ったら大間違いだよ。来シーズン、メジャーに挑戦するんでしょ?」

今シーズン終えたらもう、彼は別の舞台にチャレンジする。いろんなメディアが注目している中での彼の決断は、最注目だ。今シーズンは同期の成宮鳴がメジャー入りした。それに続いてだから余計に。

「まあ、今シーズンの結果次第だけどな」
「何言ってるの。過去で一番調子がいいって言われてるじゃない」
「…よく知ってんな、綾華」

私の友達がカズくんの大ファンなの、と言えば、『何だ』と残念そうな顔をする。…何だって、何?私は、…期待なんてしたくないよ。
『ねえ、カズくん。もっと私が大人になったら、―――してくれる?』
あれはそう。遠い日の、約束だった。いくらカズくんが私より大人だったからって、子供同士の、戯言だった。だから、カズくん自身だってその解答は覚えてるはずがない。…そう、思っていた。

「なあ、綾華。覚えてるか?」

嫌な予感がした。

「綾華が大人になったら、…結婚してくれって言うヤツ」
「…覚えて、たの…」
「忘れるわけねえだろ」

『ずっと好きで好きで仕方なかった奴から言われたんだからな』と言うカズくん。…嘘。嘘だよ、私あの時―――。『ごめん、今は付き合えない』って、確かにそう言われた。確かにその時カズくんは高3、私は中1だった。5歳も離れてる。それに、あれから何年経ったと思うの?私もカズくんも社会に出て、世の中のいろはを知った。…知り、過ぎた。もうそんな戯言を言うような歳じゃないってこともわかってる。

「…子供の時のことだよ、カズくん」
「わかってる。でも俺は―――」
「止めて、カズくん。それ以上は言わないで」

私と彼の社会的な立場は違う。私は一介のOL、一方彼はプロ野球選手。立場が違いすぎる。身の弁え方ぐらい私だって知ってる。

「なあ、綾華」
「お願い…お願いだから、」


――――時効だって言ってよ。
じゃなきゃ私、


「今もまだそれ、有効?」


諦めきれないから―――。



((end))
<まみゅうさま主催企画・「昔の約束」提出作品>


prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -