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▼ 君に捧ぐレクイエム



※注意(死ネタです。苦手な方はリターンしてください)








≪神谷・カルロス・俊樹がサヨナラホームランを決めました!≫


歓声で湧き上がる球場。一方の俺は、少しも嬉しくなかった。この後のヒーローインタビューも、すっぽかしたい気分だった。
そう。これは全て、君のためだった。

薬品のにおいが充満する真っ白な世界に、君はいた。もう、何年になっていただろうか。

『今日はどんなことがあったの?俊樹』

プロになって、学生の頃よりも見舞いに来てやれなくなった俺を、君は責めたりしなかった。寧ろ、『忙しいんだし、私のところに来る余裕があるなら練習に時間を使って』と言うぐらいで。それでも俺は、君のもとに行く。暇さえあれば、時間さえあれば。君のもとに行きたい。カッコ悪すぎて直接は言ったことないけど。本心は、毎日ずっと君と一緒にいたかった。けど、君は俺に言ったから。

『夢なの。俊樹の勇姿をテレビで見ることが、私の夢』

元気だったころは、ほぼ毎試合見に来てくれていた綾華は、「元気になったら絶対に、俊樹の試合を見に行く」と言ってくれていた。だが、それもはじめのうちだけだった。先の見えない、終わりの見えない入院生活に、彼女はそれが無理だと悟ってしまった
泣き言なんて一度だって聞いたこともない。そんな彼女が、唯一洩らしたその、死ぬまで入院生活が終わらないという悲しみゆえの願い。叶えてやりたかった。それから俺は必死に練習して、結果を残してきた。

『今日の試合、打ってたね。さすが!』と俺の好きな笑顔を浮かべて、褒めてくれた。負けて落ち込んだ時には、『また次、この試合の反省点を踏まえて生かしていけたらいいね』と励ましてくれた。辛いのは、俺じゃない、#なまえ#なはずなのに。

それでも君は、笑顔を絶やさなかった。俺が一目惚れした、あの笑顔を。君はどんな時でも俺に向けてくれた。『俊樹』唯一俺の名前を呼ぶのは、彼女だけ。彼女は俺を最期まで支えてくれたんだ。この試合。彼女は見に来てくれていた。


その次の日の朝。
彼女の両親から息を引き取ったという連絡があった。

すぐさま俺は、病院に行こうとした。けど、


≪申し訳ないが、神谷くん。神谷くんは明日に備えて病院には来ないでもらえるか?…綾華≫


と言われた。その理由は、すぐにわかった。


「ねえ、俊樹?」
「ん?」
「…私がいなくなっても、絶対に頑張ってね」


彼女は知っていた。プロになったことは、すべて彼女のためだったということ。自らが望んで、なったわけじゃないってことを。通夜が今日、行われている。少しでも彼女の、期待に応えてやれていただろうか。支えになれていただろうか。



「俊樹、大好きよ」


君と過ごした日々を、俺は絶対に忘れない。




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