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▼ Don't Happy Wedding

花嫁がほほ笑んでる。その横の新郎も。二人はお互い寄り添いあって、幸せそうだった。ただそれを見つめるだけの私は第三者。…あの世界になんて、入れるわけもないし、…『幸せにね』って、心から言ってあげられない。


「綾華も来てたんだ」
「久しぶりだね、貴子」


高校時代のマネージャー仲間だった貴子と久しぶりの再会をする。…それがこんな場所だなんて思いもしなかったけれど。綺麗にめかしこんだ貴子は、元々綺麗だから、綺麗に拍車がかかってた。羨ましいな、なんて思いながらも。結城くんと結婚した貴子には、子どもがいた。それも、男の子ふたり。何となくそんな気はしていたけれど。男の子ふたりは大変だろうなあ、と思いながら子育てを頑張っているということは人伝に聞いていた。


「毎日毎日大変よ。片付けやしないし…」
「そんなものだよ。ウチだってそうだったもの」


そう。私も既婚者だ。貴子は、『大丈夫なの?』と私に問うけれど、私はそれに気付かないふりをする。『大丈夫よ。もう結構大きくなったし』と違う大丈夫だってわかっていたのに、そう答えた。だって、初めに裏切ったのは私だもの。…彼を恨む権利なんてない。


「そうじゃなくて…」
「…言わないで、貴子。ここは祝いの席よ」


貴子は知ってる。私の全てを。だから、貴子は私のことを心配してくれているだけなんだ。そんなこともちゃんと知ってる。だけど。


「あっ!綾華先輩、貴子先輩!」


今日の主役が私たちの元に来る。…大好きだった彼の、花嫁。どれだけ今日が来ないことを祈ったか。彼女は知らない。そんな笑顔を向けないで。幸せそうな、笑顔を。私に向けないでよ。そう思いながらも、八方美人な私は『春乃ちゃん、おめでとう』と彼女に言う。すると嬉しそうに『ありがとうございます』と。彼女は言う。羨ましくて仕方がなかった。彼女の存在が。彼女の位置が。


「綾華先輩みたいに幸せな家庭を築いていきたいです!」


彼女は知らない。私が今、どんな夫婦生活を送っているかなんて。彼と結婚したのは、いわゆる政略結婚のようなものなのだから。そこに、愛なんてない。跡取りを作るためだけの、私は、ただそれだけなんだから。

こうなるなら、彼と駆け落ちがしたかった。彼の手を離さなければよかった。後から湧き上がってくる後悔に、私はもう、泣くしかなかった。こうして彼は、幸せを勝ち取ったのだから。


「……春乃ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」


あくまでも、幸せそうな夫婦を演じる。それが、私から出した約束だった。みじめになりたくなかったからだ。私は『ちょっと外に出てくるね』と言って、ラウンジに出た。外の空気が気持ちよかった。優しく、吹いているから。私が離婚しない理由は、『幸せじゃない』と誰にも言わないのは、理由があった。


「綾華」


ほら、こうやって。


「どうしたの?……御幸」


幸せじゃないなんて、言ったら。彼はどんな顔をするだろうか。…無関心かな。他人事かな。いずれにせよ、酷い振り方で私は彼を傷つけた。だからこそ、言えなかった。半強制的だったとはいえ、自分が選んだ道を、後悔したくなかったんだ。


「……様子。おかしいだろ」
「おかしくなんかないよ。…何?祝福が足りないって?」
「そうじゃなくて―――」


もう君に、心配なんてかけさせないよ。だから。一瞬でも私の変化に気づいてくれたことに、嬉しくなっていいかな。
泣いても、いいかな。
喜んで、いいかな。


「春乃ちゃんと、幸せになって。絶対、幸せになってよ。御幸」


彼の隣には、私がいたかった。
でもそれは、もう。


「―――サンキュ、綾華」


不可能な話だった。



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