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▼ 君から貰ったものはプラスチックでさえもダイヤモンド

「ちょっと待って、栄純」
「ん?」
「これ、何?」


つい数分ほど前。
社会人になった私たちは久しぶりに会おうということになり、近くの個室の居酒屋に来ていた。そこで差し出された箱。それも、青いあの、宝飾品特有のピローケースに包まれていて。それを見た瞬間に、普通の一般的な考えを持つ女の子ならば、期待する人も多いんじゃないだろうか。実際に私も、期待していた。『もしかして…』と。

実際に栄純とは高三の時に付き合ったから、今年で八年を迎えた。そろそろ…なんて私も思っていたために、期待は膨らんでしまっていた。けれど。そこで良くも悪くも期待を裏切るのが彼だ。


「何、これって見てわかんだろ?指輪だよ、指輪!」


栄純は突き出しをつまみながらそう言う。そう。指輪なのだ。指輪なのだけれど。


「いや、これ…」


『どう見てもおもちゃの指輪でしょ』と栄純に言えば、何の躊躇もなく『そうだぜ?』と言う。さも、当たり前かのように。その栄純の姿に私は一瞬舐められているのかと思った。まあ、考えてみたら、相手は栄純だ。そんな洒落たことできるはずもないよな、と思いながら、

「で?どういうことよ」

と聞けば、『実はよ―――』と語りだす。何でも、高校時代の野球部の先輩である御幸先輩の娘さんに言われたらしい。『えいじゅん、そろそろ“けっこん”しなくていいの?』と。さすが御幸先輩の子供さんだ、と思いながら私は笑う。まあ、御幸先輩は高校卒業してすぐにプロ入りして、そう時間もかからずに一軍入りして華やかな表舞台で主軸として戦っていた。二年ぐらいにはもう年棒何千万、何億という一般庶民には到底想像もつかないぐらいのお金を稼いでいた。そういうのもあって、結婚も早かった。今はやりの出来ちゃった婚だったっけ。だから娘さんはもう四歳を迎える。そんな娘さんに、そんなことを言われたらもう、どちらが子供かわからないじゃないか。


「で?何でこのおもちゃに繋がるわけ?」
「御幸先輩がいらないことを吹き込んでるらしくてよ。『えいじゅん、けっこんするあいてがいないなら、わたしがけっこんしてあげる。だから、ゆびわ。ちゃんともってきて!』って」


もう私は大爆笑だった。子供に何心配させてるのよと思いながらも、その御幸先輩の子供さんはきっと、栄純のことが好きなんだろうなと察した。まあ、子供の恋心だから、いずれはきっと消えてなくなるとは思うけれども、いい気持ちはしない。子供相手に何やってんだと思うかもしれないけれど。…ああ、もう。どうすればいいかな。


「で?御幸先輩の子供さんと結婚するの?」
「はあ?!ババババッ、バカ言うんじゃねえ!」
「いつかはロリコンの仲間入りも近いかもね」


大人げなさすぎでしょ、私。そう思いながらも、ヤキモチを焼いてる私は、本当にお子ちゃまだ。お子ちゃまよりも、お子ちゃまだ。自分の精神年齢を疑う。けど栄純はもっとお子ちゃま。

そろそろ私の気持ち、気付いてよ。


「じゃあ私はそろそろ婚活でもしよっかな」
「は?」
「…は?って何よ。そろそろ私だって身を固めたいの」


もはや私たちは付き合ってるのか付き合ってないのかもよくわからない立ち位置。これはもしかしたら、私が望むことにはならない可能性ってあるかもな、と最近は思い出した。別にそれでもいいかなって思っていたけれど、もう私だってアラサーの仲間入りをしようとしている。余裕ぶっこいでいられるほど、私は美人でもないし、何の得もない。そんな私は若いうちに結婚しておかないと結婚できなくなってしまう。


「何?」
「マジで言ってる?綾華」
「マジに決まってるじゃない。こんなつまらない冗談言わないわよ。私、何歳だと思ってるの」


歳を考えてよねと言えば、栄純はマジな顔をして私を見ていた。


「……じゃあ、そろそろ結婚する?」
「………――――は?」


そんな軽い口調で言われたって、嬉しくとも何ともない。……って思ってたはずなのに。何でだろうね、期待してたんだね。


「遅いんだよ、バカ」
「バカって!!」


あのころと変わらない、馬鹿な栄純が好きなんだ。
ずっと隣に、いさせてください。
私の王子様。


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