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▼ センセイ、指南はほどほどに。

「いや、ね…あの、哲也…」
「何だ?」
「何だ、じゃなくって…」


戸惑う私の声と、いつもの凛とした声のままの哲也。

そんな言葉たちが繰り返されてはいるが、ここは、バッティングセンターだ。あの、バッティングセンターだ。恐ろしいほど不釣合いのその雰囲気に、何をしているのかときっと周囲の人たちはここを通過する際に見て行かれていることと思う。決して怪しいことをしているわけではない。…ないつもりだ。


「打てる、打てるから…っ」
「そう言ってはさっきからバットに掠りもしないじゃないか」
「そりゃ、哲也じゃないんだから始めっから当たるわけないでしょ!?」


付き合い始めて二年が来るけれど、こうして遊んだことは一度もなかった。つまり、今日が初めてなのだ。初デート。今までは、哲也は高校球児だったために、練習練習の毎日だった。

教室でのわずかな時間と、練習や自主練終わりの帰り道での電話、寝る前に少しするメールだけのコミュニケーションだけ。それだけで、彼氏彼女と言うのが成り立つのかどうかは分からないけれど、それが私たちの愛の育み方だった。私は不思議と全く不満はなかった。『すまない』と哲也は私によく謝っていたけれど、私は、『謝るぐらいならプレーで謝れ』と言っていた。私は、もちろん哲也自身が好きだ。けれどそれよりも、哲也のプレーが好きになったんだ。だからこそ、不満も何もなかった。


「綾華、こうだ」
「いやっ、だから…!」


今日は遊ぶ予定じゃなかった。だが、『鬱憤を晴らしに、バッティングセンターに行かないか』と哲から誘ってくれたということもあり、ここに来た。

…のだが。野球初心者の私と、つい先日まで現役だった哲。どう見たって、実力にはかなりの差がある。しかも私は野球初心者だ。体育の授業でしかバットなんて持ったことない。そんな私が、突然バッティングセンターに来たからと言って、すぐにすぐ打てるわけもなくて。そんな私を見て、哲が教えてくれると言ってくれたのだが。…どうしたのだろう。哲のスキンシップが、すごいような気がするのは私だけだろうか。

『腰はこう』『足はこっちだ』と手とり足とり指南してくれるのはとても有難い。おかげで大分バットに化するようになった。有難いし、楽しくなりつつあるのだが。私は女で、彼は男だ。そう。そうなんだよ。だから当然、触られて恥ずかしいに決まってるし、選手じゃないから練習と割り切ることは私には難しかった。

…一応、付き合っているわけですし?

なのに鉄はときたら、部活で後輩に指導していた時の癖が抜けきっていないのか、はたまた私のプレー姿が見ていて痛々しかったのか、私のありとあらゆるダメな場所を触る。何もないってことは分かってるけど、今までこういうことがなかった私は当然意識してしまうに決まっていて。挙句、打つ時の補助までしてくれて。ああ、もう。


「…天然って、恐ろしいんだけど」


私が男で、哲が女なら。
きっとアブナイことが起こっていましたよ。

ねえ?哲さん。


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