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▼ ガールズデイ・ブルー

保健室。
薬品の匂いで充満しているこの場所はあまり好きではない。けれど仕方がない。


「…っ、気持ち悪…」


今にも吐き出してしまいそうなぐらい、気持ちが悪い。女の子の日は、本当に最悪だ。リンゴの日、なんて友達は可愛く言い回しているけれど、そんな可愛らしいものじゃない。痛みが現れる方は大変なのだ。頭も痛ければ、吐きそうなぐらい気持ち悪いし、お腹も痛い。本当に最悪だ。頭を抱えて、寝ていた。いつも常備している頭痛にも効く鎮痛剤を飲んだけれど、まだまだ効きそうにない。すると、ガラっとドアが開く音がする。


「桐沢綾華いますか?」


いつもよく聞く声が鼓膜を震わせる。…どうして来るんだろう。そう思いながら私は布団に包まる。つい先程まで、ずっと隣にいた人のもので。今、最高に会いたくない人の声だ。


「ええ、今そこのベッドで休んでるわよ」


「きっと辛すぎて寝てるんじゃないかしら」と先生は言ってくれる。そう。だから早く帰ってよ。私は先程最悪なことをしてしまった。生理痛だからと言って、冷たく当たってしまった。それだけじゃない。酷いことを言ってしまった。なのに、私が会いたくないなんて言うのは違う。私は本当に最悪な奴だ。


「ちょっと先生、職員室に出てきたいんだけど、少しの間任せてもいいかしら」
「あ…いいっすよ」


えっ、と思ったのは言うまでもない。先生がこの場から立ち去るなんて、一番嫌なんだけど。そんな私の気持ちは知らない先生は、ガラリと言う音を立てながら『じゃあ、ちょっとお願いね』と彼に言って保健室から離れて行った。私を置いて行かないで、なんて声を出すわけにもいかず、私はひたすら布団にくるまって寝たフリをする。多分、結構野蛮そうに見えて意外に紳士的な彼はきっと、仮にも彼女だからと言って女の子な私が寝ている所に入ってくるほど、無粋な奴じゃないと思う。そう、信じたい。


「綾華、起きてるんだろ?」


わかっているのか、いないのかよくわからない。けれど恐らく憶測だけの言葉を投げかける彼に、当然のことながら返事をするわけがない。私は、スルーして寝たフリを続ける。すると、「悪かった」と言う声がする。聞き間違いかとも思ったけれど、彼の性格上、きっとそうじゃない。


「俺がもっと綾華のこと考えてやってたらよかったんだよな」


ああ、どうして。


「…体調が悪い綾華に対して、配慮してやるべきだったよな」


どうして、私を責めないの。どうして、自分が悪いように持って行くの。


「だから機嫌直してくれって、綾華」


普段の彼―――信二なら有り得ないぐらいの少し弱弱しい声。それもそのはずだ。事の始まりも、私が悪いんだ。

授業中、ずっと伏せっている私に、信二が『ちゃんと聞いてないと順位落とすぞ』と心配してくれて声をかけてくれていたにもかかわらず、『うるさいな!』と逆切れしたのが始まりだ。挙句、私は『こんなに理解ないなら別れる!』と言って教室を出て行ったのだから。当然信二は何も悪いことなんてしていない。寧ろ、悪いのは私だ。縋るような声の信二に対して、私は返事もしない。本当に最低だ。実際に私が悪いのだけれど。

私にも言い分はある。本当にしんどいんだ。今日だって休みたい勢いだったんだ。それでも、優秀な信二の隣に立つには、ちゃんと勉強しなきゃ。そんな思いがあったから。だから、頑張って来たというのに。そんなことを言われるから。本当はわかってる。


「…もう、謝んないで」


私が悪いことも、信二は私を思って言ってくれていたことも。ちゃんと、わかってる。伝わってる。


「…綾華、」
「今は、放っておいて」


「また八つ当たりするかもしれないから」と私は少し啜り泣きながら言う。なのに、動く気配はない。けれど、このカーテンを隔てた私がいるベッドの方に入ってくる気配もない。けれど、私はどうしてだろう。

泣きそうになるぐらい、温かい気持ちになった。

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