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▼ 10年越しのアインザッツ

『うちの娘にお前は相応しくない』

『どうしてよ、お父様!私は…っ』

『うるさい!帰るぞ、綾華』

『…っ一也!』



スーツを着たお父様が、中学時代から付き合っていた一也の試合を見に行っていたら、私を連れて帰るために、いた。

…お父様はかつて見たことないぐらい怒っていて。
その時はどうしてそんなに怒るのかがわからなかったけれど。
青かったんだ。
将来のことなんて、まだ先と言って見ずに、目先の感情にとらわれて、愛だの恋だのと言って、先のことなんて考えていなかった。




時は流れて、26歳の春。
父は、亡くなった。
昨日がお通夜で、今日がお葬式だった。

父と母は離婚しており、私が喪主を務めた。
ずっと看病をしてきたから、疲れがたまっていて、いつの間にか寝てしまっていた。
それであんな、夢を見たのだろう。

あの日々が、懐かしくて。

私はそれからというもの、お父様の言いつけを守り、高校を卒業と同時に海外へ留学したり、大学院に行って博士課程に進んでいたから、忙しすぎて一也と会うことはなかった。

一也はと言うと、プロで大活躍中だと聞く。
…良かったと思った。
自分の夢を、叶えることができたんだと、私まで嬉しくなったのは言うまでもない。



「綾華さん」
「黒川専務。お疲れ様です」



黒川専務は父の右腕として会社で尽力してこられた。遺言では、黒崎専務を次期社長と指名もされており、淡々と会社の方は穴を埋められていると聞いている。だから、私のすることなんてこれぐらいなもので、何もすることなんて、残してはくれていなかった。有り難いようで、少し寂しいと思ったのは言うまでもない。


「いやいや…綾華さん休まれていないでしょう。私どもが請け負いますから、仮眠を取ってください」
「お気遣いありがとうございます。でも先程少し仮眠しましたので、大丈夫です」


『そうですか』と引き下がってくれたから、火の守りを私がする。線香が切れないよう、ずっと。頼りがいのない娘だから、父もきっと不安でならなかったんだと思う。また、だからこそ私が困らないようにと黒川専務たちに任せてくれていたのだろう。


「綾華さん」
「はい」
「よかったですね。最後の最後で認めて頂けて」
「え?」


何のことですか?と言うように私は黒川専務を見た。すると、その反応に黒川専務は驚かれたようで、『綾華さんご存知じゃないんですか?』と言われる。なら、あの件もご存知じゃないのか?なんて続けて言う黒川専務に私は何の話?という連続だ。私の知らないことはたくさんあるということは分かっていた。けれどここまでになると情けなく感じる。私は今も昔も、父に守られて生きて来たんだと。すると、



「綾華」



―――懐かしい声がした。


「え…」


どういうこと?私は全く理解ができなくて、寝不足すぎて、幻覚を見ているのかと思った。けれど、


「迎えに来た」


という彼の声。記憶に残っているものよりも数段と低くなった声。あの頃よりも高くなった身長、大きくなった肩幅。けれど、懐かしいの。


「やっぱり、ご存知じゃなかったんですね。#name1#社長は、この御幸選手が高校卒業と同時にドラフト一位通過されたときに、すぐにスポンサーに名乗りを上げられたんですよ」


『ねえ、御幸さん』と言う黒川専務。すると、一也も頷いて、私に複雑な面持ちを向ける。


「…お父様が…」
「口癖でしたよ。『綾華に相応しい人間になれたか』って。桐沢社長はずっと、御幸さんが一人前になり、安定されるのをお待ちだったんですよ」


『今日御幸さんが来られたのも、社長の遺言です。―――娘を頼んだ、と』私は今まで、お父様の本心に気付かなかった。気付こうともしなかった。お父様は、私のことを考えていてくれていたのに。はなから、私たちを引き離すということは考えていなかったのだろう。


「だから綾華さん。幸せになってください」


黒川専務は何とも言えないような表情で、笑って、私の背中を押してくれた。私は、彼をまだ、愛している。その証拠はちゃんとこの胸の高鳴りで証明されている。何を迷う必要があるの。私は、


「綾華」


ただ、


「…っ一也!」


私の名を呼んでくれる、あの人の胸の中へ飛び込んでいけばいいだけ―――。


((end))
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