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▼ こじれた愛情のQED

「綾華」
「…もう、また今日は何?」


彼氏…と言えるのだろうか、よくわからない男と一緒にいれば、絶対と言っていいほど優は来る。正直、うっとおしい。そう思っているのは言うまでもない。


「綾華」
「…後から行くから、先に行ってて」


『どうすればいい?』と面倒くさそうに言う彼に、申し訳ないって気持ちはない。だって、そんな気を使うような関係じゃないし。お互いの利害一致しているからいるだけ。都合のいいときに、一緒にいるだけだ。

それよりも、彼…優だ。優のほうが、厄介だ。私の前に優がいる。運動部、しかも野球部の優から逃げることは不可能だ。私は下を向いて、話す意思はないと言わんばかりの態度をする。


「もう受験生なんだぞ。いつまで遊ぶんでいるつもりなんだ」
「…先生とか親じゃないんだから、放っておいて」
「放っておけるか。綾華の母さん、心配してるんだぞ」


知ってるよ、そんなこと。
いいじゃない、私のことなんだから。優には、『もう、いい加減に放っておいてよ』と言う。何で、私に必要以上に絡もうとしてくるのかが分からない。ちょっと前までなら、学校で関わることは一切なかったはずなのに。どういう情況の変化なのだろうか。

滝川・クリス・優、それが彼の名前だ。私との関係はと言えば、いわゆる幼馴染みだ。近所に住んでいて、親同士が仲がいいから、私たちも必然的によく会っていたため、一緒に遊ぶことも多かった。特に父親同士が仲が良くて、優の父親であるアニマルさんの試合があるとなれば、家族総出で応援に行っていたほどだ。幼い時は、『綾華、優くんと結婚する!』なんて言っていたほど、私たちは仲が良かった。けれど、いつから関係が拗れたんだろう。

まあ、そんなこと私には関係ない。知りたくもない。


「私の勝手でしょ。優には関係ないじゃない」


何なのよ。私がひっついていたころは、そんなじゃなかったのに。私が離れた瞬間に、何でこうなるのよ。そんな都合のいい話、ない。
私は、私よりも身長の高い彼を睨みつける。私は、彼を追いかけるのはもう、やめたんだ。先の見えない恋に振り回されるなんて、もうたくさんだ。私は、“今”を生きるの。


「それに、お母さんに言ってないだけで、私の進路は決まってる。だから、放っておいて」


こんな問題児になってしまった私のことなんて、母親はもう放任状態だ。今までどうでもいいと思っていたはずの弟にばかり目をかけ始めて、バカバカしいわ。今まで私に興味があったのは、優秀だから?そんな私は偽りだなんて知って、気分はどう?ぜんぶ、全部。殻を破って何もかもを捨てた私はもう無敵だ。いままでどうしてこうしなかったんだろうって。そう思うぐらいに。

だから、今までいた友達たちも離れて行った。“成績優秀”で“クラス委員”、“優しくて明るい頼りになる”子。そんなもの、全て捨ててしまった私はもう、みんなにとっては用済みなんだ。

私は彼の横を通り過ぎる。
…すると。


「…綾華。いい加減にしろ」
「…優こそ、いい加減にして」
「綾華」
「もう、優と私は関係ない。私は私なの」


ずるいよ。ずるい。何で、私に関わろうとするの。もう、放っておいてよ。私は全身から拒否しているのに。何で、放っておいてくれないの。お願いだから、


「過去のままの私だと思わないで…!」


いい子ちゃんぶって、優の隣に立とうと。そう思っていたころの私じゃない。あの私は、どこかに埋められてしまったのだから。もう、死んでしまったのだから。


「綾華は、今の綾華で満足なのか」
「満足よ!満足だから、こうしているんじゃない!」


後期の視線を私たちに向けながら校舎を去る学生たち。野球部の捕手と、頭がおかしくなってしまった一生徒がこうして口論している。それは酷く滑稽な事だと思う。実際に私を知っている野球部の子たちには、『これ、マジでクリスの幼馴染か?』と驚かれるのが常だ。私の変わり映えに目を疑われる。


「私がいつまでたってもバカみたいに優、優って言ってると思ったら大間違い!あんな日々、もう過去でしかないのよ!」
「それでも、俺は綾華が好きだ」
「…っ」
「今も、昔も。過去も、未来も。綾華が好きだ」


何で今、その言葉を言うの。もう、遅いよ。




「…もう、遅いよ。私はもう、汚い」




優の隣にはもう。
私は立てない、立てないよ。


「私は優みたいにはなれない。優の隣に立つことはできない。…有名になって、優。優なら絶対にプロに返り咲ける。だから、…私のことは忘れて」


これが一番いい。
一番の、答えなんだよ。

優の隣に私は、あまりにも不釣り合いすぎるから。



((end))
<まみゅうさま主催企画『解のない恋愛』提出作品>


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