企画! | ナノ


▼ 偶然はいつやってくるか、わからない

いつからだったか。
そんなことは忘れたけど、気付いたらそこにいた。

遠目から俺たちを見る、カノジョの姿を。




「ね、君さ」
「!」
「あ、驚かせちゃった?」


夏の熱い日差しの中、クラスの女子たちの話の中には、『日焼けしちゃう』とか『こんなに暑いのに、運動部はすごいよね』という話が多い。なのに、カノジョは夏休みのほぼ毎日足を運んでは、目立たない場所に座って、ノートを取っている。

薄々は気づいていたのだが、なかなかモーションを掛けることが出来ず終いでただ見ているだけだった。しかし、今日、チャンスが訪れた。

降谷がピッチング、バッターが沢村で、捕手がたまたま見に来られていたクリス先輩で練習していれば、沢村(バカ)が珍しくバットにボールが当たったかと思いきや、場外ホームランという名の乱打をブチかました。そのボールはなんと、カノジョの元に。この機会を逃すまいと『俺拾って来ますね』と言い、カノジョの方へ走っていく。そして、冒頭に繋がったのだ。


「…やっぱり、目立ちました?」
「まあね」


あれだけ熱烈な視線を浴びせられたら、と冗談交じりに言えば、少し笑うカノジョに、品を感じた。育ちが良いのだなと思いながら、カノジョを見る。外見も良さそうなものを身に纏っているのを見れば、きっと、どこかの良い所のお嬢様か何かなのだろうと直感的に感じた。

なら、尚更分からない。なぜ、こんな女の子の中の女の子と言うようなカノジョが、こんなむさ苦しい練習試合でもないのに見に来ているのかが。


「俺、御幸一也ってんの」
「知ってますよ、有名ですもん」
「マジ?やったね」
「真剣に野球している高校生なら、聞いたことない人はいないんじゃないですか?」


自分でも注目されているとわかっているし、それだけの行動はしていると思っている。けど、他人に言われるとお世辞だろ?とか、お前に言われたくねえしとか思うこともあった。けど彼女が言うと、過大評価されてるなとも、お世辞だとも不思議と思わなかった。素直に、認められてるんだと嬉しかった。


「毎日練習、すごいですね」


見てるこっちも辛くなりそうです、と言うカノジョ。実際に額には汗がすごい。頭に被っているマフラータオルも日除けの役割を果たしているのか果たしていないのかよくわからない。


「まあ…実際楽じゃないけど、こういう辛い練習があるからこそ、試合で勝った時の喜びが大きいんだぜ?」
「…カッコいいですね」
「だろ?」
「案外御幸さんって自分大好きですか?」
「え…、そう思う?」
「はい」


でも似合ってると思いますよ、とカノジョは笑う。いつもは倉持とかに『性格が悪い』と言われるが、カノジョは逆に似合ってると言った。いい意味で言ったのかどうかなんて、カノジョの表情を見れば一目瞭然だった。そしてその笑顔は、遠目で見るよりもはるかに綺麗だと思った。

カノジョはノートを持って、立ちあがる。


「帰んの?」
「はい。収穫もたくさんありましたし、そろそろ失礼しますね」
「…明日も来る?」
「明日は…多分、別の学校の視察に伺う予定なので、青道には伺わないかもしれません」
「そっか」


カノジョが来ないと言った時、少し残念に思ったのは言うまでもない。けど、


「今日は、御幸さんから話しかけていただけて、嬉しかったです。また見かけたら声掛けて下さいね」


その言葉で少し気持ちが高揚したのは言うまでもない。

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