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▼ ごめんね、独占欲が強いんだ

苛立ちというものは常に俺の中に日々蓄積されていっている。それは、留まることを知らない。それは、今日も相変わらずだ。あームカつく。マジで、イラつく。


「瀬戸くん、これってこれで合ってる?」
「ああ、ちょっとここが違う」
「え!ほんと?!どこどこ?!」


わかってはいる。十分理解はしているつもりだ。ヤツは生徒会の副会長。ヤツと綾華の間に何もないということは、分かっている。文化祭が近くて、生徒会役員で会計を任されている彼女は、責任感の塊だから、少しのミスもしないように、ヤツを頼っているだけ。

けど、そんなに近付く必要あるか?


「3Cはお好み焼きで、3Bは確かドーナツだったろ?」


綾華の手に触れるな。


「あー…そうだったね…」


綾華の肩に触れるな。


「予算も一ケタ多い」
「…瀬戸くん様々です」
「全くだ。最近、ミス多いんじゃないの?桐沢」
「ご尤もで…」


次から次に出てくる、綾華に対しての独占欲。
そんな顔近付けんな。そんな目でヤツを見るな。声かけんな。俺だけを見ろ。他の奴を視界に入れんな。

こんな俺を見たら、きっと綾華は驚くのだろう。きっと、俺のためにと生徒会をやめるかもしれない。そんな綾華を束縛しようとしているわけじゃない。だから、俺は必死に隠す。けど、…やっぱり、我慢にも限界というものがある。


「どこ行くんだよ、御幸」
「ちょっと、頭冷やしてくるわ」
「おいおい、次数学だぜ?」


倉持の声も無視して、俺は教室から出る。きっと綾華は気付いていないんだろうな。ヤツと、話していたんだ。きっと、気付いてない。でも、気付いていないほうがよかった。こんな、醜い感情をむき出しにしている俺を、彼女には見せたくない。

いつだってカッコイイ俺を見てほしい。野球をしているときの、自信と闘志を燃やした俺だけを、綾華には知っていてほしい。こんな俺は、綾華は、知らなくていい。

屋上に行き、寝転んで空を見る。いつだったか、屋上で二人で昼を食べ終わった後、綾華と話した。

『いつもね、雲を見ると思うの』
『何を?』
『自由な空っていいなって。曇って何にでもなれるじゃない?パンダにも、チョコにも、何にでも形を変えられるじゃない?だから、可能性が無限大なんだよってことを教えてくれてる気がして』

私の勝手な解釈なんだけどね、と照れくさそう笑いながら言う綾華の姿が思い浮かぶ。そんな綾華を可愛いと思ってしまうことも、相当惚れている証拠だろう。だから尚更、その綾華の笑顔が他のヤツに向けられていると思うと、腸が煮えくりかえそうになる。


「あー…マジ腹立つな…」


俺は屋上でポツリとその言葉を放った瞬間、ガタン、と扉から音がした。まさか、と思って扉を開ければ、


「綾華…?」


綾華の姿があって。綾華は、ヤバいというような表情でそこに固まっていた。とっくの昔に授業は始まっている。なのにどうして彼女がここにいるのだろうか。


「…ごめんね、盗み聞きなんてしちゃって」
「…いや…」

「でもね、嬉しかったよ」


綾華から出てきた言葉は、俺の予想に反する言葉で。嬉しい?何が?俺は、『続きを言え』と言わんばかりの視線で綾華を見る。すると、いつもの笑顔で彼女は俺を見る。


「だって、今まで一也、そういう不満みたいな…独占欲っていうのかな?出してくれなかったから」


嬉しくって、と綾華は少し顔を赤くしながら言う。
ああ、そうか。独占欲を、もう少し彼女に向けて出してもいいのか。


「わがまま、言ってもいい?」
「うん、いいよ。一也のわがままなら、聞いてあげるよ」


先ほどまでの苛立ちが、浄化されたようだ。どこかに、消えてしまったように、俺は今、幸せに満ち溢れている。


「あんまり、他の男にその笑顔、向けないで」


初めて言った独占欲の塊のような言葉は、俺の独占欲の強さを表していた。でもその言葉を聞いて、彼女は『うん、わかった』と嬉しそうに笑って言った。


((end))
<斎藤さま主催企画『わがまま』提出作品>



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