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▼ ひとり分の片道切符がてのひらの中で鳴いている

もしも私が、カムパネルラに出会えていたなら。
カムパネルラは同じことをしてくれていただろうか。




東京の12月はとても寒い。それが、例年にも増して今年は特に寒いのだと天気予報士がいつか言っていた。寒い真冬の冬空の下、私は東北行きのホームでひとり、電車を待っていた。


「…ははっ…酷ぇぜ、桐沢さん」


『俺に何も言わずにどっか行くの?』と。
背後から声がする。誰?私なんかに話しかけてくれる人は。…なんて、聞かなくたってわかる。私の交友関係は、広くないから。


「…何で、知ってるの」
「桐沢さんのことなら何でも知ってるぜ?」
「…ちょっとそれ、引くけどいい?」


同じクラスだった御幸くん。彼は野球部で、捕手、守りの要で四番で部長で。頭だって良くって、顔だって整ってる。完全無欠そうな彼だけど、クラスではそんなに目立つほうじゃないし、あんまり倉持君以外の人と話しているところは見たことない。けれど、そんな彼は、なぜか私を構っていた。

私は親が有名大学の教授で、私のことなんて何にも興味なんてないくせに、成績だけにはうるさかった。そんな苦痛な毎日からただ。ただ、抜け出したくって、夜の街に逃げた。ただ、夜の街を歩いていただけなのに、担任やちょっとやんちゃしているクラスメイトに見つかって、学校で裏口を叩かれるようになった。もともと、高校なんて興味も関心も何もなかったから、どうでもよかった。

ただ、定期考査でトップをとって、単位を取って、模試でいい成績を出せば、親にも干渉されなかったし。何も知らない奴らに、なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ。そう思って、ただただ、黙秘を続けていた。けれども、そう言った噂と言う物は、人から人へ伝わるのも早いけれど、それがオーバーになって回っていく。本当に噂というものは怖いといわれる所以がわかったような気がした。ありもしないことを回され、次第にそれは学校中で知られていった。

それが親にもばれ、謹慎を食らい、それからというものは学校でも家でも誰かの目がある。…もうこんな生活、うんざりだ。我慢の、限界だ。だから私は、唯一信じられる田舎のおばあちゃんの家に親にも学校にも無断で逃げる。


「なあ、行くなよ…桐沢」
「無理」


ああ、でも…。唯一、彼だけが違った。御幸一也。彼は、彼だけは、私を信じてくれた。

『なあなあ、桐沢さん』
『…何?また先生から言われてきた?』
『はっはっはっ!まさか。俺がサボりたいから来たんだよ』
『…変な人だね。私の噂知らないの?』
『…知ってっけど、それが事実かどうかは俺は知らねえし』
『…みんな言うんだから、事実でしょ』
『でも俺、自分の目で見てないから』

だから、信じない。
それを、真剣な、まっすぐな目で私を射抜くように彼は言った。
それが、どんなに嬉しかったか。どんなに救われたか。彼は知らない。でも、出会うのが遅かった。


「…二週間前、御幸くんから声掛けてくれて、嬉しかったよ」
「…桐沢」


最後、自分の信念を貫いたカムパネルラ。けど彼は、最初からずっと自分の意思で私に話しかけてくれてた。それだけで、いい。それだけで、十分だよ。
―――ビュンっと。私の目の前に、白いものが止まる。新幹線が、来た。


「私、最後に御幸くんに出会えてよかったよ」
「…っ、最後とか言うなよ…っ桐沢!」
「…最後だよ。次に出会うのは、“上”でね」


ねえ。
何でそんな、悲しそうな顔をするの。


「…もう少し、早く出会えたらよかったのにね」


彼に背中を向け、私は電車に乗り込みながら呟いた。けれど、窓が反射して映る私の顔は、どこか晴れ晴れとしていて。旅立ちにはお似合いだ。…彼に最後、会えたことはよかったのかもしれない。

―――私の、カムパネルラはいたのだから。



((end))
<さがみさま主催企画『銀河鉄道の夜』提出作品>



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