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▼ そうして今日だって君を求めて眠りにつく

寂しいと感じる夜は、
いつだって喜ばしい君の朗報があった後だ。



電車に乗っていれば、サラリーマンが開いている新聞記事の一面に大きく、<○○10年ぶりの快挙!御幸・成宮コンビ無敵!>という一面が書いてあった。連日ニュースではその報道ばかりだ。
外は暗闇に包まれて、街灯が寂しく灯っている道を歩いて帰る。大学の飲みサークルから一人、誰もいない広い家に帰宅し、テレビを付ける。すると、


『本日のゲストは、今大会フル出場を果たす○○のバッテリー、捕手・御幸一也選手と投手・成宮鳴選手です!』


テレビからは愛しい同居人…彼の姿。

観客からは、数々の黄色い悲鳴が聞こえてくる。これが、ビジュアルのいい野球選手の凄いところ。スポーツ選手なのに、アイドル並みの悲鳴を浴びるのだから。

『何でも、御幸選手と成宮選手はシニア時代から親交があったとか…』
『はい。まあ、そうですね』

テレビの中のあなたは、どこか遠い人みたいだ。いつもこの部屋の中で他愛ない話をしているあなたとは違う。もう、私の元には帰ってこないんじゃないかっていつも不安になる。そんなこと、あなたは知らないだろう。

『ですが、成宮選手が稲城実業で、御幸選手が青道でしたよね?』
『一也と俺がバッテリー組んで、日本一になろうって誘ったんすよ。なのに、一也が―――』
『あーはいはい、すみませんね、鳴さん』
『仲がおよろしいんですね』

分かっていた。『プロ入りする』って一也が在学中に言い出した時から、こうなるってことは、覚悟していた。プロ入りを何人も排出してきた有名な高校を卒業してすぐにプロ入りし、一軍昇格。そして正捕手の座を欲しいままにした。そんな彼は一躍スター入りを果たし、さらにそのルックスからテレビにも引っ張りだこだ。日本が注目する君は、私だけのものじゃない。けど、寂しくないわけがないじゃない。

シーズン中は体作りのためにトレーニングだの、練習だの、練習試合だのして、瞬く間に本番を迎えて。オフシーズンだって、こうしてテレビの仕事をして、雑誌の仕事をして。高校の時だって部活中心の生活。こうして同居してたって、私は大学、彼は仕事。今の今まで、恋人らしいことは何一つしてない。

でも。それでも。私が彼の傍から離れなかったのは。『綾華』ニカっと子供のように笑う、彼の姿が忘れられないから。大好きだから。

それに、私は知ってる。

夜遅くに帰ってきた時。
『ごめんな、綾華』
いつも申し訳なさそうな顔をして謝りの言葉を言い、私の頭を撫でる彼を、私は知ってる。

けど。
けど。

―――でも。


『綾華』


私の名を呼ぶ、あなたが恋しい。



「寂しいよ。早く、帰って来てよ…」



早く帰ってきて。

私は冷たいダブルベッドの中にひとり入り、目を閉じる。




((end))
<柚月夏海さま主催企画『恋も吐息もすべての朝も』提出作品>



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