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▼ 渡された第二ボタン

片想いと言えば聞こえはいいだろうか。
私は、ずっと御幸くんが好きだった。いつ好きになったかなんてわからないけれど、気付いたら目で追ってる私がいて、好きなんだと気付いた。けど、親友が御幸くんが好きだと聞いたから、この気持ちは抑えるしかなくって。…だからどうしても最後の最後まで悩んだ挙句、御幸くんに想いを伝えることができなかった。

「綾華〜!離れたくないよお!」
「もう、東京にいるんだからいつでも会えるじゃない」
「そういう問題じゃないー!」

そして今日は卒業式だ。結局私は、御幸くんに言えずに卒業するのだろう。進路だってみんなそれぞれ別の道。もう、会えないんだ。親友に抱き着かれて、私は宥めている。だからと言って、同じ都内。会えないわけじゃないのに、彼女にとってはそうじゃないみたいで。

「綾華、一緒に写真撮ろうよ!」
「いいよ!撮ろ撮ろ!」

小学校から同じ友達とも、もうここでサヨナラ。別々の道を歩く私たちはきっと、よっぽどの縁でもない限り、もう交わることはないのだろう。『綾華!』と呼ぶ声がする。親友と言う存在は、大切で、大きくて。失いたくないからこそ、どうしてもその一歩が踏み出せなかった。後悔しないかと言われれば、すると思う。けれど、男との“色恋”より、女との“友情”の方がこれから先、ずっと続くから。

「これから綾華どうするの?」
「明日高校のクラス編成のテストあるから少し見直そうかなって」
「そっか…綾華、桜沢高校だもんね」
「うん」

第一志望に見事合格して、…滑り止めだった青道には行けなくなった。勿論、嬉しい気持ちの方が大きいけれど、残念な気持ちも大きかった。まあでも、これでよかったんだ。いつかきっと、吹っ切れるはず。そう思って、私は帰ろうとした。すると、

「桐沢」

突如呼ばれた私の名前。
―――この声は、間違えたりしない。

「…御幸くん」
「ちょっと時間、いい?」
「…うん」

私の先を歩く御幸くんは、どこへ向かうのか、スタスタと歩いていく。チラリと見えた御幸くんの学ランは花だけで、ボタンが全てなくなってた。それは、…第二ボタンまで。さすが人気者は違うな、と少し残念に思いながらも、私は御幸くんに着いていく。すると、中庭で立ち止まり、私の方に突然振り向く。

「なあ、桐沢」
「うん」

「俺さ、ずっと桐沢が好きだった」

…過去形のその言葉の意味を、私は瞬間に理解した。

「…うん」
「一年の時さ。委員長だった桐沢がさ。怪我しまくってた俺に、しつこく『大丈夫?』とかって構ってくれたのが嬉しくってさ」
「…うん」
「クラスが離れてからもずっと、桐沢を目で追ってた」
「…」

あの当時はただ、いつも怪我をしてくる御幸くんが痛々しくて放っておけなかった。気付いたら、野球のシニアチームでいろいろあるんだってことを話してて、相談と言うか、『大丈夫?』と話しかけていただけだった。…けど、その時はそれだけで、それ以上の気持ちなんてなかった。けれど、御幸くんはそんな前から私のことを好きでいてくれた。その事実が嬉しくって仕方なくって。

「何度も桐沢に告白しようと思ったけど、野球に専念したかったから…出来なかった」

…ああ、ほら。これから御幸くんは、野球をしに高校に進学するんだ。だから私は、“彼女”としてじゃなく、“元同級生”として、応援すべきなんだ。それが、御幸くんが望む、私の立ち位置。だから私は、

「…そっか」

―――この想いは告げたらダメだ。
少しでもこの時間を、チャンスだと思った自分がバカだと思う。この想いはもう、消してしまおう。そう、私は自分に言い聞かせた。けれど、彼はポケットから金色の何かを取り出した。

「けど、これ…貰ってくれねぇ?」

取りだされたそれは、…ボタンだった。どこのボタンかはわからないけれどきっと。…残酷だよ、それは。私は涙が止められなかった。御幸くんはまさか私が泣くだなんて思ってなかったのか、動揺していた。私はそれを受け取り、『ありがとう』と言った。

「…もしアレだったら捨ててくれても構わないから」
「捨てるわけ、ないよ…」

捨てれる訳がない。好きな人に、第二ボタンを自ら貰えるなんて。こんな幸せ、きっとニ度と来ない。そんな幸せを貰った私が、最後に彼に出来ることは。

「…ありがとう、御幸くん。すごい思い出に残ったよ。青道で、頑張ってね」
「…おう。桐沢も頑張れよ」

ただ応援することだけ。

さよなら、青春。
―――さよなら、恋心。

((end))
<まゆきさま主催企画『クラスメイトに恋をした』提出作品>




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