▼ 卑怯なラブゲームの裏には
卑怯だって言われていい。
ただ私は、あんたの言いなりじゃないってことが証明できれば。
パシン、と。
比較的軽い音が鼓膜を振動させる。ああ、私、叩かれたんだ。そう理解するのに時間はかからなかった。
「酷いよ、綾華…っ!」
「…美佳…」
「私のこと、嘲笑ってたんでしょう?!」
目の前には涙を流しながら、私に怒りをぶつける彼女。そんな彼女を私は嘲笑ったことなど一度もない。寧ろ、羨ましくて仕方がなかった。逆に、嘲笑っていたのは美佳の方じゃない?と問いたかった。
けどもうどうでもいい。だって、私はこのゲームの勝者だから。
「ごめんね、美佳」
「ごめんじゃないよ…っ!謝ろうって言う気がないのに謝んないでよ!私たち、親友じゃなかったの?!」
親友。
私たちの間の関係がそれならば、親友というものはそんなちっぽけなものなんだね。
そんなこと、よく言うよ。そう思ったのは言うまでもない。美佳は今まで散々、私の好きな人を奪ってきたじゃない。私が今回したやり方と、全く同じ方法でさ。
いいご身分だよね。自分がしたことは忘れてる。自分のことは棚に上げて、人がしたら許せないんだから。本当にいいご身分だよ。
「…私だって好きだったんだもの。仕方ないでしょう?それに、」
私は今までの恨み辛みを全て出し切るかのように、満面の笑みを浮かべて、言った。
「美佳じゃなく私を選んでくれたのは、御幸くんだから」
その言葉を言えて、すごく達成感があったのは言うまでもない。その証拠にほら。美佳の顔が、歪んでいっている。ずっと、ずっと。中学の頃から、美佳のいいように使われて。もうそんな日々にさよならを告げたかったんだ。それが、一番の理由。
ねえ、美佳。知らないでしょ?私以外にも、美佳に男を取られて恨んでいる子、たくさんいるんだよ。もう、私はそんな美佳について行くのは懲り懲りなの。
「ごめんね、美佳。けど、お互い様よね?」
私は悪女。
そう言い聞かせて、演じる。せっかく、御幸くんが協力してくれているんだ。私は、
「美佳だって、私にそうしてきたんだから」
その瞬間の美佳の顔が傑作だった。ああ、私って本当に性格悪いな。でも、それでいい。私はこの日のために頑張ってきたんだから。
美佳が怒った顔で『みんなに言いふらしてやるから!』なんて言いながら、私の前を後にする。やれるもんならやってみなさいよ。傑作すぎるでしょ、あの顔。そう思いながらも、木陰に視線を向ける。すると、すっと出てくる黒縁メガネの長身の彼。
「本当にありがとね、御幸くん」
「いや?面白かったし、」
それに、と続ける御幸くんの顔は、ニヤリとした表情で。その表情を浮かべたまま、私に近付き、肩を組む。
「ストレス発散、させてくれるんだろ?」
「―――うん。たくさん奉仕させてもらいますよ」
ニッコリと。
私たちは微笑み合う。
そう。
私たちはシアワセなカレシとカノジョ。
その脚本はどんどん書き進められていく。
彩りもない、真っ黒いページを綴っていくのだ。
全ては、このラブゲームに勝つために。
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