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▼ 一目惚れってアリですか?

青道高校はずっと憧れだった。
何がいいかって、あの試合前の円陣。初めて見たときのあの感動は、簡単には語られない。だから、青道に行きたかったのに、お父さんが『あんな男どもの巣窟に綾華を置けるか!』と猛反対されてしまい、結局中学からのエスカレーターの女子高に進んだ。けれど、私にも転機が訪れた。

「…やった、初上陸。青道高校!」

父が監督に就任するかもなんて言うことで、青道高校に出入りしている。で、肝心なスマホを忘れたということで、持って行ってあげてと母に言われ、青道高校に上陸した。ちょっと見学しようと思っていれば、

「あなた、外部生でしょ」

と声をかけられ、振り返ると綺麗な女の人がいて。

「すみません。こちらでお世話になっている落合の娘なんですけど…」
「えっ、落合さんの?!」
「父の忘れ物を届けにーー」

来たんですけど、と言おうとすれば、

「礼ちゃん、こないだの試合のスコアブック貸してー…」
「…!」

お目当ての人がいた。…やっぱりカッコいい。試合の時みたいにサングラスはしてなかったものの、黒縁メガネで練習着姿もすごくカッコいいなあ。そう思いながら彼を見た。

「こんなむさ苦しい男所帯のグラウンドに珍しいね。礼ちゃんのお客さん?」
「丁度良かったわ、御幸くん。彼女を落合さんの所まで連れて行ってあげて」

高島さんは、何の気なしに御幸くんに私を託したのかもしれないけれど、本当に嬉しかった。今まで生きてきて良かったと思った。

「落合監督?」
「頼んだわよ」

御幸くんはなぜ私が監督を訪ねて来るのかがきっと理解できかねていたのだろう。なぜ?と言う表情が拭えてなかった。一方の高島さんも、何も言わずに行きなさいと言うような雰囲気で、私を御幸くんと共に外に出した。「彼は私が信頼する野球部の子だから安心して」と。一言添えて。

「…すみません、私がいたばかりに」
「はっはっはっ、気にすんなよ。礼ちゃんが人使い荒いのは今に始まった事じゃないからな」
「そんな風には見えませんけどね」
「人は見かけによらずだぜ」

本当にそうだなあと思い、自然と出てきた笑みを浮かべる。すると、『名前、何て言うの?』と御幸くんから聞かれる。

「私、落合 綾華って言います」
「落合…って、まさか」
「そうです、あの落合の娘なの」

驚きを隠せない様子の御幸くん。まあ、以前の高校でもそうだったから慣れてるけど。父があんな調子だから、私が落合の娘だと言ってもすぐには信じてくれなかったり。

「へえ〜びっくりしたぜ」
「私、青道高校に入りたかったんですよ。けど、父から反対されて入れなくて。だから今日はすっごく嬉しくって仕方ないんです!」

御幸くんにも会えたし!本当、今日は素敵な日だ。これで明日も頑張れる。するとマウンドが見えてきて、父の姿が見えた。何やら、指導をしているのだろう。

「あ、父だ」
「マジで娘なんだな…」
「マジですよ!ここまで連れて来ていただいてありがとうございました」

では、と。軽くお辞儀をして、私は父の元へ行こうとした。けれど、掴まれた右手首。その掴まれた所から感じるのは、紛れもなく御幸くんの手で。御幸くんの体温で。

「ねえ、」
「はっ、はい」


「…一目惚れってアリ?」


―――“春”の訪れを、感じた。


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