訪れる便り、蘇る記憶。
「綾華とこうやって話すとか、久しぶりだな」
「…あの頃以来だもの。そうもなるわ」
そうだ。彼とはあの頃以来なのだ。
私がまだ学生だった頃。
―――早乙女学園に通っていた頃。
「…なあ、綾華。後悔はしてないのか?」
「…何が?」
「学園を辞めたことだよ」
後悔はしてない。
それは、胸を張って言える。
ただ、中途半端に終わらせて、私だって辛かった。
なのに、
「龍也、よくそんなことが聞けるね」
その言葉は、私にとってとてもキツいものだった。
彼の気心が知れない。
「なんでそんなことを言うの?私は、後悔なんてしてない」
私は、あなたの為に辞めたというのに。
どうしてそんなことを言うのかがさっぱり理解できない。
あの時の決断が、正しかったのか、正しくなかったのかは分からない。
それは、今でも同じだ。
良かったのか、悪かったのかと問われても誰にだってわからない。
けれど、あの頃の私にとって最善だと思って取った行動を、そんな風に言って欲しくなかった。
「…実は、社長が綾華に会いたいと言ってるんだ」
「…社長…早乙女さんが?」
また、何があるというのだろう。
もう、私に話すことなんて、何もないのに。
…私に用事なんて、何?
「…そのことに関しては、この手紙に書かれてると思う」
それは、達筆な字で桐沢 綾華様と書かれた早乙女さんからの手紙だった。
普段なら、…あの時ならば、Miss桐沢と呼ばれていたはずなのに、こんなに畏【かしこ】まった早乙女さんのこの手紙を見ると、中身を見るのが怖くなる。
…一体、この中には何が書かれてあるというの。
それはわからない。
きっと、封を切られていないというところからして、彼も見てないだろうし、聞いてもいないのだろうから、私が見るしかない。
私はその手紙を開ける。
拝啓、桐沢 綾華様
YOUには、本当に悪いことをしたと思っています。
若かったときのこととは言え、龍也さんとYOUを切り離したこと、本当に申し訳なかった。
そのことについて話したいことがあります。
○月○日、MEは一日中学園にいます。
YOUの都合のいい時間帯に、来てくれると助かります。
では、
敬具
…多分これは、林檎さんが直したな。
YOUとかMEとか、そんなことが書かれてある時点でこの文章は、こんな風には中身は書かれていなかったはず。
つまり、手直しがかかったもので、すべてが早乙女さんが書いたわけじゃないだろう。
まあ、少なからず、表面の宛名は本人直筆だろうが。