複雑な気持ちの裏側に、本当の思いはある。

迎えに来るって言ったけど、一体何で来るつもりなのだろう。
そう思いながらもオフィスを出た。
すると、注目を集めている一台があった。

「…まさか」

その車の周辺に近寄ってみれば、赤いフェラーリ。
彼の愛車だった。

「…」

正直、複雑だ。
どうしてこんなにも早く気付くのだろう。
彼…日向さんじゃないかもしれないのに。

私はその場に立ち尽くしていた。
すると、目の前の車のドアが開いた。
その瞬間、『キャー!』と騒ぐ人たち。

…まさか。

「早く乗れ、綾華」

日向さんが降りてきて、私をエスコート…ではないけれど、半強制的に彼の愛車に乗せる。
その間、私への不平不満は本当にすさましいものだった。
…せめて会社の前では止めてほしかった。
そう思っても、後の祭りだ。

「綾華、家の住所は?」

彼が運転しながら、私にそう聞く。

「…いいよ、用件だけ話して。話が終わったら、最寄りの駅に送ってくれたらいいから」

正直、家を知られたくなかった。

貧層だからとか、そういった理由じゃない。
もう、そういった関係を持ちたくなかったのだ。

家を知られれば、もしかしたらまたってことがあるかもしれない。
でももう、会う気などサラサラないのだ。
だから、教えたくなかったのだ。

「…わかった、なら用件話すな」

私は前を向いていたからわからなかった。
そう言った時の彼の顔が、とても悲しげに歪んでいたことを。


mae ato
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