言いたいのに、言えないのはあなたのせい。
この、今、目の前で起こっていることが、本当に現実なのかと疑いたくなる。
できれば、夢であってほしいと。
そう思うくらいに私は動揺しているのに、平然を装っている。
そんな私は本当に馬鹿としか言いようがないのだろうか。
「…何か、私に用事ですか?」
「ああ。…今日仕事何時終わりだ?」
そう言うことから、きっとここでは話せない内容なのだろう。
けれど私には、そんな用事はない。
『話すことなど、何もない』と。
そう言いたい。
そう言いたいはずなのに、
「…今日は5時で帰れるけれど…」
言えないのは、どうしてだろうか。
…あの日に、気持ちはすべて捨ててきたはずでしょう?
「なら、それくらいの時間に迎えに来る」
それだけをただ言い終えれば、日向さんはフロントを後にする。
ああ、嫌味なくらいに全く変わってない。
他の生徒にはそんなことないのに、私には、自分の言いたいことを言い終えれば、颯爽と去る。
なんで、私の知ってるあなたを出すのよ。
ただただ、私はその場に突っ立っていた。