忘れたい、忘れさせてよ。

忘れたはずだった。
とうの昔に、消し去ったはずだったのに。
あんな過去は、もう。
私のために、―――彼のために。

忘れたはずだったのに。




雨がざあざあと降り続ける中、雨なんて関係ない室内で電話で対応する。
都内某有名企業で、受付嬢をする私。
かれこれ2年ちょっとぐらいこの仕事に携わり、もう随分と様になってきたような気がしていた。
昼休憩時、私はスタッフルームに入り、同僚たちと作ってきたお弁当を食べながら他愛もない話をしていた。
すると、

「桐沢さん」
「はい?」
「―――お客様です」

少し赤みを帯びた顔で、私にそういう後輩。
ひょっとして風邪でも引いているのではないだろうか。
そう思った私は、後で必ず聞こうと思いつつ、『ありがとう』と言って外に出た。

出た瞬間、納得した。
―――ああ、そういうこと。

「よう、久しぶりだな」
「…お久しぶりです、日向さん」

日向 龍也。
ケンカの王子様などさまざまなドラマに出演する、所謂アイドルだ。

そんな芸能人がいきなり目の前に現れたら、そりゃあんな風になるわな。
そう解決しつつも、実際は目の前の出来事に私は驚きを隠せなかった。

なんで、なんで日向さんがいるの。

―――もう、終わったはずでしょう?




mae ato
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