彼…彼女と再会。

そのあと私は、『○○駅に向かって』と言って、その駅で降ろしてもらった。
そこからはあまり記憶がない。
あまりにも衝撃過ぎて、私の貧相な脳ではキャパオーバーだ。

…あれでよかったのだろうかと。
思わずにはいられない。
あんな、龍也の顔は、見たことがなかったから。
苦しそうで、悲しそうな彼のあんな顔は。
でも、もう二度と同じ過ちはしないとあの日、誓ったのだ。
これ以上、早乙女さんに迷惑を掛けることはできない。
何か迷惑をかけたから、こうして辞めて何年もたっているというのに私は呼び出しをくらっている。
それが、何よりの証拠だ。

「…どうすればいいのかなあ」

わからない。
正しい答えが、あればいいのに。
答え合わせができたらいいのに。
何度そう思うことがあっただろうか。

『綾華』と。
彼が私の名前を呼ぶ声が、脳裏に蘇る。
…嬉しかったのに。
久しぶりに彼と会って、あんなに話すことができて。なのに、こんな終わり方って…。

もし。
もし、私と龍也が付き合っていなくて、普通のパートナーとして一緒に学園生活を送っていたのなら。
こんな風にはなっていなかったのだろう。
そして、私は今、事務職なんてしていなかっただろう。
彼やシャイニング事務所所属のアイドルの楽曲を作っていただろう。

それを考えても始まらないことは分かっているのだが、考えてしまう。

「あっれ?もしかして、綾華じゃない?」

そんな声の主は、

「…林檎…」

今をときめくスーパーアイドル、月宮 林檎だった。
彼…いや、彼女とも私は同級生だった。
そんな彼女にも私は覚えてもらえているだなんて、すごく幸せなことだ。

「久しぶりね!綾華!」
「本当だね、私が中退してからまったくだもんね」
「…綾華…」
「もう、そんな顔しないでよ、林檎。私は後悔なんてしてないんだから」

林檎まで悲しそうな顔をする。
それは、龍也と一緒で。

「…もしかして、もう龍也と会った?」
「うん、ついさっきね」
「えっ…送ってくれなかったの?!」
「ううん、龍也は送ってくれるつもりだったみたいなんだけど、私が近くの駅まででいいからって言ったの」

林檎は『ふうん、そう…』と何か考えるような感じで顔から笑みが消える。
どうしたのだろう。
そう思ってもきけない私は、

「そういえば、言おうと思ってたんだ!」

他の話題を振ることにした。
すると、林檎は『うん?どうしたの?』とまたあの笑顔を私に向けてくれる。

「私が学生のころに林檎にあげた曲!何かの企画で歌ってくれてたよね!」
「えっ、見てくれてたの?!綾華…!」
「うん、音楽番組をたまたま見てたらね!嬉しかったなあ…」

私が林檎に書いてあげた曲は2〜3曲しかないけれど、その中でも一番の出来栄えだったあの『Eternal』は、林檎が悩んでた時期に書いた、応援ソング。
それを林檎が歌ってくれてた時は、本当に嬉しかった。
あの時の気持ちが、蘇ってきたもの。

「綾華に許可を取ろうかどうか悩んだんだけど、勝手に使って…」
「全然気にしなくていいのに!もうあの曲は林檎のものなんだから!」

私がそう言った瞬間、林檎は少し考えたような顔をして、

「ねえ、少しアタシと話さない?」

そう、私に言った。

mae ato
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