正しいとか、間違えるとか。
「まあ、もう今さらだろうけれど…」
「…俺は、今もまだ別れたつもりはなかった」
「え…」
彼の衝撃的な言葉に、私は思わず彼を見た。
ずっと、視界の端でしか見ることのできなかった彼を、しっかりと。
しっかりと、視界に収める。
「綾華が学園を去ったあの後、俺は、寝る暇も惜しんで仕事にうち明けた。綾華を忘れるためもあったが、綾華が照らし出した俺の人生を失敗したくなかったからだ」
「…」
「綾華のことが気になって、何度も社長に聞いた。『今、綾華は何をしているのか』と。でも、何も教えてはくれなかった。それに、ケンカの王子様の収録やらなんやらで卒業した後は忙しかったから、それに集中しろと社長に言われてな」
あの後のことは、私も気になっていた。
彼は、一体正式にデビューできたのか。
とても気になっていた。
けれど、その心配はいらず、龍也はまっすぐにデビューへの道のりを歩いていた。
その事実だけでいいと。
そう思って私は、生きて来たのに。
「それがだ。一昨日突然社長から呼び出されて、『Miss.桐沢のところにこれを届けてクダサーイ』とかって呼び出されて、一瞬時が止まったような感覚に陥ったよ」
「…どうしてだろう。なんだかその光景がすごく思い浮かべられる…」
「だろう?多分その通りだよ。」
「…それで今日、来たってわけね」
何となく、状況は理解したはず。
早乙女さんも無茶苦茶な人だ。
仮にも…っていうか、今や知らない人はいないであろうアイドルである日向 龍也に一般人に宛てての届け物をさせるだなんて。
ゴシップにでもなったらどうするのだろうか。
「…龍也」
「俺は、今でも綾華が好きだ。その気持ちに嘘偽りはない」
なんでそんな風にまっすぐ言ってくれるの。
どうして私のことを、まっすぐ見ることができるの。
私は、見ることなんてなかなかできなかったのに。
正面から彼を見ることはできなかったのは、あの頃の気持ちを思い出しそうで怖かったから。
『好きだ』と。
言われて嫌な人はいない。
『好きだ』と。
日向 龍也に言われて嫌な人はいない。
ねえ、私、素直になっていいのかな。
そう思った瞬間、脳裏に浮かぶ、早乙女さんの言葉。
『Miss.桐沢…YOUは考えたことがありますか』
『Mr.日向の可能性を』
『彼のカリスマ性は天性のモノだ』
『…それを潰すか生かすかは、YOUにかかっている』
ああ、私は。
「…もう、終わった話でしょう?」
また、方向を間違えるところだった。