過去に蹴りをつけよう。

「…ねえ、龍也」
「…何だ?」
「あの日のこと、…覚えてる?」

何年も経ったはずなのにまだ、記憶に新しいと思えるほどの、あの鮮明に記憶されているあの日の記憶は。
今もまだ私は忘れることができない。

―――忘れることなど、できない。

「…ああ」
「楽しかった、本当に。あなたと過ごした学園生活は」

心から楽しかったといえるほど、短かった私の学園生活は充実していた。
その中には、―――彼、龍也も確かにいた。

「あの日の言葉は、今でも忘れてないよ。私」

そうだ。
何も知らなかったあの日の私たちは確かに、愛し合っていた。

『綾華』
『うん?何?』
『絶対に、卒業して、デビューして、成功したら。…結婚しような』
『…っうん…!』

幸せだったあの日々。
決して、なかったことになどできない、美しき日々は、私の“思い出”だ。
けれど、思い出でしかない。

「…龍也。何年も前の話だけれど…あなたに言い忘れてた」
「…」

「―――別れよう」

そうだ。
この言葉がなかったから、私たちはこんなにも未だにぎくしゃくしているのだ。
だから私も次に進むことができない。
…完璧に過去にすることができないのだ。

…ねえ、龍也。
もう、私たち、本当にお別れしよう。

そんな意味も込めて、私は彼にそう言った。
そんな彼は、一体今、どんな顔をしているのかは分からない。

同級生だった彼は、今は先生である前に、芸能人なんだ。
そして、同級生だった私は、事務員である前に、一般人。

同じ志を抱いていたあの頃の私たちじゃない。
彼と私とでは、今は全く別次元の世界にいるのだ。
…同じ立場ではなくなったのだ。


mae ato
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