訪れた窮地
公演も残り3日結局あの脅迫状からなにも起きずに公演できていた…このまま無事に終わってくれればと願っていた矢先だった。
「夏希ちゃん!監督!大変です!!」
「どうしたんですか?」
「と、とにかく!お二人とも楽屋に!」
部屋に入ると全員がテンパっているのが嫌でもわかった。心臓が痛いくらいドキドキしてしんどくなってきた。
「やべぇな…」
「よりによって、公演中かよ」
「みんな、何があったの?」
「小道具のピストルがなくなった」
「え…?」
「一つ残らず消えてる」
まさか…盗まれたとか?このままじゃ舞台に影響が出る…どうしよう…
「休憩終わるまであと10分もないか…代わりを手配しても間に合わねぇ…かくなる上はモノホンのチャカを…」
「それはアウトでしょ!?」
「次にピストルを使うのは?」
「……俺っす」
「休憩明けの次のシーンか…どう考えても間に合わないな」
「もうすぐ休憩終わります!って!ちょっと!!」
支配人のポケットからスマホを取ってシトロンに電話をかける…きっとこの時間なら至とスマホゲームをしてるはず…でて、お願い…。
『夏希どうしたネー?』
『シトロン、ごめんね。急用なんだけれど、玩具の銃とか売ってるお店知らない?』
『商店街にあるネ!ススキのオモチャネ!」
『鈴木玩具店ね!わかった、ありがとう。あと、申し訳ないんだけど綴を急遽こっちにきてもらえないか頼んでみて?綴が無理そうなら至無理矢理引っ張ってきて』
『わかったヨ』
「いづみさん、今から綴か至が来ます。2人なら私の代わりに仕事できるはずです。ピストルですが、私が走って買ってきます。間に合わないかもしれないけどなるべく早く帰ってきます」
「わかりました!夏希ちゃん…お願いね」
「夏希、頼んだぞ」
「任せて」
万里に背中をトンっと押され走る。こんなに真剣に走ったのはいつぶりだろう。走ってる最中に秋組のみんなの顔が思い浮かぶ…また、私が起こしてしまったミスだ。これ以上みんなに迷惑かけたくなかった…だけど…起こってしまったものは仕方ない早くしないと舞台が壊れてしまうかもしれない。
「はぁっ……はぁっ……いづみさんっ!」
「夏希ちゃん!!」
舞台は無事になんとか成功したようで助かった。秋組のみんなからは褒められたので嬉しい。いづみさんと話し合った結果小道具などは事務所で厳重に保管される事になった。
「はぁ…みんな今日はお疲れ様。トラブルがあったけど無事に切り抜けてくれて、本当によかった」
「まさか手でピストルやるとは思わなかったけどなコントかよ」
「うるせぇ、思いつかなかったんだからしょうがねぇーだろ」
「必死だったせいかピストルに見えてきたけどな」
「みたかったなぁ…残念」
「二度とごめんだ…」
「あれ?左京さんは…?ちょっと呼んできますね」
「あぁ、私が呼んでくるよ夏希ちゃんは休んでて」
そう言っていづみさんは談話室を出て行ったと同時に至と綴が戻ってきたようで2人の分のコーヒーも淹れる。
「至!綴今日は本当にありがとう!助かったよ」
「夏希もお疲れ様」
「夏希、俺頑張ったからガチャ引いて」
「はいはい…」
「でも、このままだと夏希が心配…本当に手伝わせて大丈夫なワケ?なにかあったら万里守れんの?」
「はぁ?急になんなんスか?」
「私なら大丈夫だよ」
なにかあればきちんと誰かに助け求めるし…けど…大丈夫だとは言ったけれどこれ以上って考えると怖い…みんなの命とか…狙われたら…流石にそこまではないよね?誰も怪我はしていないから…。
「何か恨まれるような事した…?」
「はぁ!?んで俺なんだよ!」
「だって!万里しかいないじゃん!!」
「はぁ!?ンなもん兵頭も、臣も、オッサンもじゃねぇーか!」
「………そうだった…臣も…十座も…左京さんもだ…」
「そんな目で見んな…」
「たぶん、大丈夫だと思うぞ」
「うっ、嘘だ!返り討ちにする人達だ…太一くらいしかいないや…ダメだ…この人達」
「えっ!?ええっ!?俺っちッスか?夏希ちゃんと付き合えたりしたらそりゃ恨まれそうッスけど…」
「「はぁ??」」
「太一おめぇ今なんっつた?」
「太一、ちょっとお兄さんと話そうか」
「ごっ、誤解ッス!」
めんどくさい事になりそうだったので慌てて綴と止める。本当に何も無かったらいいけれど…考えれば考えるほどしんどくなりそうだったので今は考えるのをやめた。