切り裂かれた情熱
秋組旗揚げ公演の準備が着々と進み残すは、明日のゲネプロと意気込んでいた時だった。PCには一件の通知が来ていてよく見れば、SOLDOUTとなっていた。つまり、秋組旗揚げ公演チケットは完売したのだ。思わず嬉しくて、早く伝えたくて寮から劇場へと走って向かう。
「いづみさん!!」
「夏希 ちゃん?そんな急いでどうし」
「完売しましたよー!!」
不思議そうに私を見つめるいづみさんに抱きついてそういえばいづみさんは私をギュッと抱きしめながら2人で喜ぶ。左京さんに危ねぇと怒らたので大人しく椅子に座ってゲネプロ前最後の通し稽古を観る。
「ぜってー殺す!!」
「十座くん、早くはけすぎ。ちゃんと暗転を待って。万里くんも舞台袖の動きにきをつけて」
暗転してもお客さんにはしっかり見えているのだ、つまり袖を通り過ぎるまできちんと役に入り込んだままにならないとすぐにお客さんにはわかってしまう。
「その点太一くんは、未経験なのにしっかり本番用の動きができてた。すごいね」
「え!?」
「太一、すげーじゃん。雄三のおっさんとかに教わったのか?」
「いやいや、ビギナーズラックッスよ」
なんだか最近太一の様子がおかしいような気がする。気がする、だけなので誰かに言ったり聞いてみたりしてないからただの勘になってまうのだけれど…結局何も言うことも無く、秋組のミーティングをぼーっと聞いていた。
「以上!ミーティング終わりっと」
「明日のために、今日は早めにゆっくり休んでね」
太一はやっぱり体調が悪いのか少し顔色が悪い。後で部屋に様子でも見に行こうかなぁ…流石に明日ゲネプロだし緊張しているのかも…そうだとしたら邪魔するのはよくないか…。
「あ…これ持って来ちまってた」
「ん?あ、衣装のアクセサリー?私直しておこうか?」
「いや、俺がなおすの忘れてたから自分で行く」
「フライヤー補充しないとだし、なおしておくよ。臣は明日に備えてゆっくりしてて」
「悪い、頼む」
臣からアクセサリーを受け取ってフライヤーを持ち寮を後にする。今回のフライヤーには冬組劇団員募集と新たに追記したのだ。フライヤーも補充して楽屋に入って時が止まったように立ち尽くした。
「なに…これ」
皆の衣装はボロボロに切り裂かれていて、とてもじゃないが着れるような状態じゃない。ポケットからスマホを取り出す手が震える、みんなに伝えないといけないのに…幸が見たら…きっと傷つく。だけど、私一人がどうにかできるような状態じゃない。
『さ、左京さん、あのっ』
『……待ってろ、すぐにそっちに行く。電話切るなよ』
上手く声が出なくて思うように伝えられなくてただ呆然と立ち尽くしてるとバタバタと足音が聞こえて万里がすごい勢いで入ってきた。
「夏希っ!怪我ねぇのか!?おいっ!!…………んだよこれ…」
「わかんないっ…臣のなおしにきたら…ボロボロで…どうしたらいいかわかんなくって…それで」
「おいっ夏希、お前は怪我してねぇな?犯人と会ったか?誰か見たか?」
「誰とも会ってない…来たらもうこの状態でした…」
「十座、今すぐに監督と瑠璃川呼んでこい。臣は俺と劇場の中見て回るぞ、万里はこいつの側にいろ」
「うっす!」
「わかりました」
「万里、私達はパーツ拾おう…」
「ああ…」
監督と幸ちゃんが入ってきて2人とも顔面蒼白で呆然と立ち尽くす。どうしようも無い…舞台を中止しろとと書かれた紙をいづみさんに渡すと苦虫を噛み潰したような表情で紙を見つめた。
「………許せねぇ」
「せっかく幸が作った衣装、こんなにするとかマジありえねぇ」
「犯人は見つけたらぜってぇ殺す」
「だな」
「それより、どうすんだ。明日のゲネプロ」
「どうしよう…何か代用できる衣装で…」
幸は悔しそうに手を握りしめている。顔は俯いているから見えない。
「カントク、1日だけ待って。作り直す、絶対に本番に間に合わせるから!半端な衣装で舞台に立たせたりしない…こんな嫌がらせに負けてたまるか。絶対完璧な衣装で舞台立たせてやる」
「わかった!夏希ちゃん、公開ゲネプロは中止で!支配人にも至急連絡して!」
「わかりました!」
すぐに劇場にある支配人室へと向かい電話帳を引っ張り出してリストアップする。私は私に出来ることを精一杯して少しでも幸ちゃんの手伝いをしよう…
『支配人っ!!起きてください!至急連絡があります!!』