あと、もう少しだけ

「なぁ…万里、夏希なんかあったのか?」

「……別に」

「集中力無さすぎ。なにがあったわけ?」

「……俺のせいっす…今日オレのツレに絡まれて…」

隣にいる至さんは完全オフモードで淡々とゲームをこなすが上の空で俺も同様そうなんだろうが、もちろん答える気は無かったが夏希の事になると、この人は人が変わったようにうるさい…観念して、俺のせいというと表情が険しくなってあの、至さんがスマホを置いた。

「あぁ、なんか十座傷だらけだったけどそれが理由?夏希 部屋から引きこもって出てこないらしいけど…まぁ真澄が言ってただけだからアレだけど」

「はぁ…大丈夫とは言ったけど、まぁ大丈夫なワケねぇか」

「コーヒー入ったぞ…でも、万里だけのせいじゃないだろ。俺達も傍にいればそんな事にはならなかっただろう?ただ、晩飯食ってないのは気になるな…」

臣が淹れたてのコーヒーを目の前に置いて困ったように笑った。左京さんはため息を吐いて臣の隣に座って考えた表情のまま珈琲を飲んだ。

「飯結局食ってねぇーのか…アイツ昼も食ってなかっただろ?…おい、摂津話したくないならいいが、どういう状況でそうなった」

「……オレのツレに絡まれたんすよ…そんでアイツら俺らが手を出せない事をいい事に夏希に、手を出そうとしたんすよ…まぁ、もちろん未遂だったんすけど…その中で1回ヤってみたかったってアイツに言ったんすよ…しかもわりと際どいところ触られてるっ…あぁ、今考えただけでもぶっ殺してぇ!!」

オッサンは普段いつものよーに日常茶飯事でキレてるがこんな静かに殺気立つのは初めて見た。至さんや臣は言わずもがな怒っている。

談話室の扉があいてゆっくり入ってきたのは夏希 だった。顔色も悪いしすこしフラフラしてるようにも見える…やっぱり無理しやがって。

「おい、夏希っ、大丈夫か?」

「万里…大丈夫だよ、ありがとう」

どう考えても大丈夫じゃ無さそうな夏希 についてキッチンに一緒に入って見守る。食器棚からコップを取り出して麦茶をそそぎ飲もうとした瞬間だった動きが一瞬止まってコップは大きな音を立てて割れた。

「夏希おいっ、大丈夫か…怪我はねぇな…」

「あぁ、うん、大丈っ」

「喋んなくていい、吐きそうなんだろ?無理しなくていいから」

「茅ヶ崎、ほうきとちりとり持ってこれるか?」

「わかりました」

キッチンのすみに倒れ込んだ夏希 の身体は震えていて口元を手で押えている。左京さんがキッチンに入ってきて夏希 を見て一段と表情がけわしくなる。

「おみっ、夏希 だいじょうぶ?おれ、なにかっ」

「三角、大丈夫だよ。心配ないさ」

「おい、斑鳩。近くのコンビニでラムネと甘めのジュース買ってこい」

「ラムネとジュース!買ってくる!」

いつからいたのかわかんねぇ三角は左京さんからお金を受け取ると凄い速さで消えていった。きっと臣に夜食でも作ってもらおうと思ったんだろ、幸い三角なら足異常にはえーしすぐ買って戻ってこれるだろ…ラムネとジュース…そういえばこいつ低血糖持ちだった。

「夏希っ、無理するな吐きそうならちゃんと吐け」

「ここじゃ狭いから移動すんぞ、夏希 ちょっと動くぞ」

夏希 を抱き上げてキッチンのすみからソファーまで移動させて座らせる。吐き気が酷いらしく背中をさするが夏希 は我慢しているのか手を口で抑えるだけだ。

「おい、夏希、さっさっと吐け。吐いた方が楽になる」

「やだぁ……っ……」

「夏希、大丈夫だ。ここにいる人みんな喧嘩慣れしてるから心配しなくていい…な?」

「オレも酔っぱらいの相手散々してるし気にしなくていい早く楽になりな」

涙目で苦しそうに臣と至さんを見つめる夏希 はゆっくり頷いた。吐きたそうにしているが昼も夜もまともに食ってねぇからか、もどせたのは胃液だけで酷く苦しそうだった。

「さきょー!買ってきたよー!」

自室の布団へと寝かせてゆっくりラムネとジュースを飲ませて暫くすれば顔色も、もとにもどりだいぶんと回復してきたようで安心する。

「万里っ、待って」

「すぐ戻ってくるから、お前の容態伝えてくるからちょっと待ってろ」

ゆっくり頷いた夏希 は少し不服そうにそっぽ向いて布団へとくるまった。あぁ、やべぇ可愛いなと思うと同時に安心する。談話室に戻ればこっちも少し落ちついたみたいでコーヒーを飲んでいた。

「夏希どう?」

「だいぶん回復してるっすよ」

「あーマジで良かった…オレの嫁が可哀想過ぎて…次からラムネとジュース常備しとこ」

「まぁ、それがいいな。摂津、アイツは低血糖値もちか?」

「まぁ、そうっすね…最近症状出てなかったんで油断してたっすわ」

臣がキッチンで夏希 用の粥を作っているのが見える。出来たのかおぼんにのせた粥を俺に手渡して微笑んだ、マジでこの人オカンだな。

「万里頼めるか?」

「オレっすか?」

「夏希が1番信頼してんの、万里だろ」

そう言われて少し顔がニヤけたのを至さんにバレていたようで睨まれる。オレの嫁だからなと言っているようで頭痛くなってきた。幻聴かと思ったけどアレ絶対言ってたわ。

「夏希、臣が粥作ってくれたぞ」

「お粥かぁ…いい匂いする…」

「座れっか?」

ゆっくり座って、粥をスプーンで救ってふーと冷ませば夏希 はびっくりしているのか俺を凝視している。

「万里、そんな事できたの?」

「喧嘩売ってんのか」

「違うよ…ん…美味しい」

「お前さ…あんま無理すんなよ。心配かけるとか思わなくていいっつたろ?」

「別に…そういう訳じゃないんだけど…なんか、万里がいつもに増して優しいから気持ち悪い」

「お前…やっぱ喧嘩売ってるだろ」

「違うよ。嬉しいだけ、ありがと万里」

「あぁ、ほらちゃんと食え」

ゆっくり夏希 に粥を食わせてから、夏希 が眠れないって言うから見たがっていた天馬が出ているドラマを観る。こんな恋愛ドラマ興味なんて無かったがここMANKAIカンパニーに来るようになってから観ようになった…それも夏希 のおかげだなと思うとなんでもワガママを叶えてやりたくなる。そう思った自分に末期だなと頭を抱えた。

「………寝たか」

俺の膝ですやすやと眠る夏希 の髪で遊びながらぼーっとしていると繋がれていた手に力が入ってギュッと握りしめられる。

「ば、んり…」

「ん?」

「どこ…いくの?」

「どこにも行かねぇよ」

夏希 は泣きそうな顔でそう言ってどこにも行かないといえば嬉しそうに笑って再び眠る。夏希 を抱き寄せて布団の中へと入れば意識がとんだ。



「はぁ?ふざけんな、死ね」

「ちょ、至さん酷すぎません!?」

「あぁ?これくらい許されるでしょなに一緒になって寝ちゃってんの?」

「はぁ?至さんの方がアイツと寝てる確率高いっしょ!」

「うるさい、だから?」

「はぁ?アンタら…ゆるなさいっ!!」

うるさい真澄にバレて至さんと怒られる。つーか、お前が1番夏希 と監督独り占めしてるだろうがっ!と言いたくなったがやめた。なんだかんだこいつは本当にシスコンで夏希 の事が好きなんだろうなと思えばどうでも良くなった。

あと、もう少しだけ

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