ミッドナイト・レッスン

朝、新聞を取りに行くのが憂鬱になる…前回、脅迫状が届いてたし…秋組のメンバーなら恨まれても仕方ないと言えばそうなってしまうのが難点だ…

ポストを開ければやはり、脅迫状だった。
"警告は終わった、これより先、実力行使を行う"か…本当になんの目的でこんな事。談話室に戻ってキッチンのゴミ箱に捨てようと思った矢先だった。

「夏希っ…?」

「っ!……びっくりした万里か…脅かせないでよ…びっくりしたじゃない」

「隠したもん出せ」

「はぁ…隠したワケじゃないんだけど…また…脅迫状届いてた…」

「またですか!?たたたたたっ!大変です!!監督よんできます!!」

「宣戦布告か…」

「…ふざけやがって…」

「嫌な感じだな…夏希、怪我とかしてないか?」

「え、うんもちろんだよ。ありがとう」

実力行使ってどう言う事だろうか?誰かが恨まれているのだとしたらその人を名指しするはず…もしかして、MANKAIカンパニーに恨みとか?まぁ…昔からある劇団だし…でもそもそもここ数年は廃れていたはずだ。

あの脅迫状が届いてから1週間ついには、イタズラ電話まで来るようになって困っている。通常の仕事に影響が出たりしはじめてるし…どうしたものか。

「夏希? 大丈夫か?」

「え、あ、うん。大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないな、コーヒー砂糖と塩間違えてるぞ」

「え、うそ!ご、ごめんなさいっ!っつ!!」

「おい!!」

ぼーっと考え事したまま物事を進めるのは本当に良くない。手に熱々だったコーヒーがかかってしまい万里が私の手を勢いよく流水で冷やす。

「ばっか!!…大丈夫か?」

「タオル取ってくる」

臣がキッチンから出て行った。万里は私が悩んでいることに気が付いてるんだろうなぁとぼんやり万里の横顔を眺めた。うーん、万里ってこんなにかっこよかったっけ…?

「んだよ?つーか、お前ほんとどんくせぇんだよ!しっかりしやがれ」

「もう、大丈夫だよ、ありがと」

何か言いたそうにしていた万里を置いて臣を追いかければ太一が深刻そうに電話していた。あの太一が困ったようにそして悲しそうに覇気がなくってボソボソと喋る…へんな太一。

「あれ、太一そんなところで何してるんだ?」

「あ、あ、えっと、」

「電話してたんだよね、大丈夫そう?深刻そうだったけど…?」

「ぜーんぜん、大丈夫っスよ!」

「本当か?誰と電話してたんだ?」

「友達の悩みを聞いてたっス!あぁ、そうだ!カントク先生が夏希チャンの事呼んでたっスよ!」

「いづみさんが?…あ!忘れてたっ!確か、春夏組の公演物販!」

そう言われ思い出していづみさんの自室へと急いだ。ある程度の話が終わって私も自室へと戻ろうと思った時だった。万里と十座が2人で稽古をしていて思わず笑ってしまった。

「お疲れ様、差し入れ」

「夏希っ、お前いつから」

「びっくりした…すまねぇ」

十座には甘いカフェオレといちごタルト。万里にはブラックコーヒーとサンドイッチ。うん、やっぱり稽古するとお腹空くだろうしこれくらいで丁度良かったかも。

「あのさ、稽古私も見てていい?」

「あぁ?まぁ別にいいけどよ」

「ああ」

派手なアクションシーンが売りで万里と十座は運動神経抜群だしそれにこういった喧嘩シーンは言わずもがな上手い…まぁ経験者だから上手いのは当たり前かもしれないがやっぱり他の役者さんより迫力がある。流石テンプレヤンキーとネオヤンキー…言ったら怒られそうなので言わないけど。

「そういや、お前演劇好きって言ってなかった?」

「ん?うん、好きだよ」

「…そうなのか?お前は演劇しねぇのか」

「私はやらないよ。見る専門だもん」

そう言えば万里と十座は少し不思議そうな表情をしてまた稽古再開した。会社を経営する父親と母親の影響で多少なりとも芸能界の人達と交流があり、その世界へと誘われそうになったのは事実だったが父親が断固拒否していた。何故だかは分からないけれど…私は目立つのは絶対にダメらしい。

まぁ、興味がないのでどうでもいいのだが。私の将来の夢は"気立てのいいお嫁さん"なのだから…。

「おい、どーした?」

「え?」

「夏希なんかあったか?」

「なんでもないよ…」

ミッドナイト・レッスン

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