嫉妬心
今日は久々に1人で、隣町まで欲しかった文鳥さんグッズを探しに行く。本当だったら万里と約束していたが喧嘩してからそれっきりだし一応いつもの待ち合わせ場所に来たが万里は来なかった。
仕方なく1人電車に揺られる。この前の新しい限定グッズであるブランケットは至のおかげで手に入れたけれど今日は可愛らしいポーチが入荷したとの情報をシトロンと椋が商店街のマダム達から仕入れてきてくれたのだ。
亀吉には散々浮気だ~とか言われたが知ったこっちゃない。もちろん亀吉も大好きだが、小さい頃飼っていた文鳥のマシュマロちゃんが本当に大好きなのだ。
「……やめてください」
「……………」
平日の通勤ラッシュよりかはマシだけれど日曜日の朝だから電車は混んでいる…ふとお尻に違和感があってやめてくたざいと伝えればサラリーマン風の格好をした男性が頭をぺこりと下げた。
まぁ、混んでいて少し当たる事くらいあるだろうと気にもとめず暫くすればまた、違和感がある。何度も何度も当たるソレは気持ち悪かったがこれ以上言えなくてひたすら次の駅に着くまで我慢する。
「っ、や、やめっ……」
「おい、てめぇわざとやってねぇだろうな?」
「ひょ、兵頭くん…」
「大丈夫か?とりあえずここ座れ」
兵頭十座…かれに腕を引っ張られて気持ち悪い男から引き剥がされて座っていた場所に無理矢理座らせられる。目的の駅に着けば、どうやら彼も同じ場所だったようで改札口まで送ってくれる、見かけによらず本当に優しい人だ。
「ご、ごめんね、兵頭くんには頭上がらないや…2度も助けられちゃった」
「あぁ、別にいい」
「あ、そうだ、この前のお礼も兼ねて一緒にスイーツとかどうかな?お礼するって言ってたし!」
「あぁ?オレは別に」
「決まりねっ!」
文鳥さんグッズが売っている雑貨屋はカフェも併設されており、そのカフェのスイーツがまた絶品なのだ。1人で行くのもなんだか、寂しいし無理矢理兵頭くんを引っ張って行く。
「兵頭くん、好きなの頼んで食べてね!あ、ちなみにこのパンケーキとあとこのモンブランがすっごい美味しいから」
「じゃあ、それで」
店員さんに2人分頼んで待っていれば店内にいるお客さんからの視線が突き刺さる…兵頭くんはその視線に少し居心地悪そうだったがどこか少し嬉しそうだった。
「なぁ、お前は俺が怖くないのか?」
「ん?兵頭くんが?別に怖いとは感じないけど。あ、でも優しそうだなぁとは思った!あとは趣味が合うな~とか」
「趣味?」
「うん、兵頭くんスイーツオタクでしょ?1度カフェで見かけた事あるんだよね~その時はケーキとマカロンで迷ってたでしょ?」
「あぁ…見られてたのか…まぁ、その。スイーツは好きだ。兵頭くんは気持ちわりぃ…十座でいい」
「わかった、私の事も夏希って呼んで」
お待たせしました~と目の前にはパンケーキとモンブランが置かれる…あぁ、幸せだ。この甘い香りも綺麗で美味しそうな芸術的な作品も…凄い。
「……おい、お前俺とパンケーキなんか食って大丈夫なのか?あの日の」
「万里は彼氏じゃないよ……親友だった…と思ってたみたいな人だから」
「…そうか」
「ふふ、十座クリームついてる」
「ん?ここか?」
「違うよ~こっち…ハイ、取れたよ」
「……悪ぃな」
少し顔が赤いような気がしたが嫌じゃないなら良かった。ニコリと微笑んでカフェを後にする。お会計の時は払う払わないで揉めて店員さんが泣きそうになってたので私が折れる形で店を出た。
「はぁ…もうお礼の意味ないじゃん」
「いいっつてるだろ?オレはこの店に来れただけでいい……オレはこの容姿だから怖がられる」
十座が心配だと言うので天鵞絨町まで送って貰えることになり、お言葉に甘えて送って貰うことになった。十座は自分の容姿が好きじゃないらしく重々しく話した。だけれどきっと十座は十座にしかできない役とかできそうなんだけどなぁと思う。
「ふーん…そうかな?十座みたいな役者さんいたら舞台映えしそうでカッコイイよね~!ヴィラン役とか似合いそう!」
「ヴィラン?」
「うん、悪役なんだけど絶対似合うよ~じゃあ、今日は天鵞絨町まで送って貰っちゃってありがとう!とっても楽しかった!」
「ああ、オレも…楽しかった。その、本当にありがとう」
「え、ええっ、こ、こちらこそだよ!頭上げて!」
ほんと、十座って真っ直ぐでこう素直で少し憧れてしまう私も十座程真っ直ぐだったらもっと変わってたかもしれない、そう思うと少し嫉妬心が芽生えて嫌になる。
「じゃあ、気をつけろよ」
「うん、またね」