帰る場所

万里と手を繋いで寮へと帰る。左京さんになんて説明しよう…あぁ…困った…。
だけど、左京さんが言ったんだ…ワガママになっていいって…自分の素直な気持ちは万里と離れたくない。このまま、万里を腐らせたくなかった…

「なんて、ツラしてんだよ…」

「べ、別に…その…なんて言うか」

「ん?」

なんだか万里がいつもと違って気持ち悪いくらい優しいから調子が狂う。困ったなぁ…

「ただいまー」

「万チャン!夏希 チャン!帰ってきてくれたんだ!」

「おかえり、夏希、万里」

「………何しに帰ってきた。二度とこの寮の敷居を跨ぐなと言ったはずだが…簡単に辞めるような人間を仲間として信用出来るわけねぇだろ」

全員が黙り込む…そして万里が繋いでたままの手をギュッと握った。

「お前らの一人芝居を見た…正直負けたと思った…オーディションの時は間違いなく俺がダントツだって思ったのに、いつの間にかすげぇ差つけられてて、焦った…もう一度、今度は本気でやって、お前らに勝ちたい。だから戻らせてくれ」

そう言って万里は照れ臭そうにどこか、悔しそに頭をゆっくり下げた。こんな万里は出会ってから初めて見た。

「万チャンが頭下げた…?」

「万里、お前…」

「……今後、リーダーとして、人一倍責任を果たすと約束しろ」

「わかった」

「兵頭もそれで文句ないな?」

「……っす」

「正々堂々やって、芝居への思いとかいうやつも含めて、お前に完璧に勝つ」

「上等だ」

きっと秋組はこの2人の関係と同じように変わっていくんだろうなと思ったら思わず涙が出て笑ってしまった。本当に、本当に良かった。

「はぁ…夏希 よくやった。素直になれたじゃねぇーか」

「左京さぁぁぁぁぁぁん」

「おいっ!くっつくな!つーか、顔拭け!」

「夏希 ちゃぁぁぁぁんっ!!!!」

「えぇ…カントクまで…どうしたんだよ?」

左京さんが困った顔して私を宥めていたら、いづみさんが帰ってきたらしく私を見るなり突進してきてギュッとおもいっきり抱きしめられる。わしゃわしゃと髪も撫でられ勝手に脱退なんて許さないからって言われる。あぁ、私もここにいて幸せだと感じる。

「夏希ちゃん 良かったッスね!…あ!そうだ!みんなで風呂、入りましょう!」

「は?」

「なんだ、急に?」

「俺ら、これから風呂行こうと思ってたんス!万チャンも十座サンも左京にぃも一緒に行きましょ!」

「ああ、いいかもな。今までみんな微妙に時間ずらしてたし」

「仲直りは裸の付き合いッス!」

「なんでそんなこと…」

「たまにはいいんじゃないですか?行ってらっしゃい!」

「他人事だと思って…」

ブツブツ嫌そうな左京さんは動かない。万里が私に耳打ちをして、"上目遣いでワガママだめ?"って言ってみろと言う。やだなぁ…怒られたら怖いし…と思うがやるまでツンツンされて面倒なので意を決して左京さんの前に出る。

「私は左京さんも一緒に皆でお風呂に入ってきて欲しい…ワガママだけど、ダメかな?」

「…ちっ…万里…てめぇ後で覚えておけよ……はぁ…わかったわかった。お前は監督と一緒に入れ」

「うん…左京さん、ありがとう」

そう言うと困った顔で笑って私の頭を優しく撫でて秋組のみんなと談話室から出ていった。

「夏希 ちゃん…万里くん連れ戻してきてくれてありがとうね」

「勝手なことしてごめんなさい…だけど、その、万里は親友だから…」

「そうだね、万里くんはもうこのMANKAIカンパニーの家族だから…もちろん夏希 ちゃんも大切な家族なんだから居なくならないでね」

そう言われギュッと抱きしめられてまた、涙が溢れた。本当に、本当に幸せなのだ。

「よーし!私一旦部屋に戻ってくるからまた、お風呂でね!」

「はい!」

エプロンに着替えてキッチンに立つ。きっと秋組のみんなは長湯してくるだろうから冷えたお茶でも入れておこう…コップを取り出した途端バンっと勢いよく扉が開いて怒った顔の幸が私を睨みつけた。

「夏希っ 何勝手に脱退しようとしてんの!?意味わかんないんだけどっ!」

「待って待って!ゆっきー!誤解!出ていったんじゃなくてセッツァー迎えに行っただけだって!」

「まぁ……いるならいいけど」

「幸ちゃん…」

「あっ、あのっ…その失礼かもしれないんですがっ…夏希 さんって万里さんと付き合ってるんですか…?」

「え?」

「いや、あの!すみません!その、手繋いで帰ってくるの三角さんと見かけて…あまりにもあのお似合いでとっても素敵だなぁって…まるで映画のワンシーンのようで!」

「ふふ、ありがと。でもね椋、私万里と付き合ってないよ。親友…万里はね初めて出来た友達なの」

「えへへ~夏希 とオレもさんかくともだち~」

私をギュッと抱きしめてくれる三角はいつもより抱きしめる力が強かった…きっと、本当に私が出ていくのでは無いかと心配してたみたいで罪悪感が残る。

「ふーん、それってそう思ってるの夏希 だけだったりして」

「え、嘘…あ、でも万里は親友って」

「あーもー!めんどくさっ!そっちじゃないし…ネオヤンキーも大変だね…あ、秋組の衣装できたのと、夏希 専用に作った服も完成したから」

「本当!?嬉しい…楽しみだなぁ…」

「うん、俺もすっごい楽しみにしてるから」

「おい、夏希 こいつにはくれぐれも気をつけろよ…」

「え?なんで?」

「なんでってそりゃ…お前っ」

「あぁ、ゆっきーが夏希チャン のバストの話してたからっしょ?もー、テンテン勘違いしちゃってー!」

「なっ!!オレは!!」

「あぁ、天馬大丈夫だよ?私いつも幸に測ってもらってるし、お陰で自分に似合うものも分かったし!」

「なっ!!!!お前っ!!!」

「ねぇ~ねぇ~天馬~バストってなぁに?」

「は、はぁ!?バスト!?バストはその!あれ!アレだ!!」

天馬がぎゃあぎゃあ騒ぐせいで幸が私の下着…つまりブラを選んでいるとあらぬ誤解を招き全員から怒られた…解せぬ…

帰る場所

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