目の下にビックベアー

遂に、新生春組初公演の脚本の締切日だ。冷蔵庫にしまっておいた、綴専用の夜食は綺麗に完食されていてお茶碗も綺麗に洗ってくれている。キッチンにはありがとうのメモが置いてある…うん、今日も生存確認出来て良かった。

「おはようございます」

「夏希ちゃん、おはよう」

「おはよう」

天気のいい洗濯日和の日曜日、起きて談話室へと向かえば佐久間君といづみさんは起きていたようだった、落ち着かないのかソワソワとしている佐久間君が少し面白い。

「佐久間君、落ち着かないの?」

「うーん、今日が締切であまり落ち着かなくて…」

「確かにそうだよね。私も佐久間君と同様落ち着かないや…」

「あ、俺の事佐久間君じゃなくて咲也で大丈夫だよ?」

「あ、本当?いいの?じゃあ、遠慮なく咲也って呼ばせてもらうね、私も夏希って呼んでくれたら嬉しい」

「ウキウキしいだネ!」

「シトロン、それを言うなら初々しいだよ」

「馴れ馴れしい」

「咲也とは、1年生の時に同じクラスだったんだよ?別にいいでしょ」

「ワタシの事もさんいらないヨー!シトロンって呼ぶネ!」

「うーん、じゃあシトロンって呼びますね」

「これでもーっと、夏希と仲良くなれたヨー!痛い!痛い!真澄痛いネ!」

茅ヶ崎さんと、シトロンも起きてきたようで賑やかだ、落ち着いた頃に珈琲を目の前に置き、朝ごはんは?と聞くと全員いるようで食パンを焼いていく。今日の朝食はエッグベネディクトで洋食だ。

食後いづみさんとシトロンさんが食器を洗ってくれると言うのでお言葉に甘えて椅子に座ったまま、LIMEの返事を返す…まぁといっても万里からしか来てないのだけれど。友達いないのは悲しい…まぁ自業自得だが。

「今日で1週間…綴君の様子はどう?」

「知らない」

「部屋にはいるんだよね?」

「たぶん」

「えっ!?だふん?同室なんだし、話したりしないの?」

だと思った…いづみさん…我が弟真澄は、貴方以外興味ないから…たぶんきっと気にも止めず生活していると思うなぁ。

「しない」

「大学も休んでるみたいだし、様子を見に行った方がいいかも」

「私、みてきます」

「もし、まだ脚本が出来てなかったらどうなるんですか?」

いづみさんは悲しそうにほかの脚本を使うと言った。確かにそうだ、これ以上は待てないだろう。稽古だって綴さんは出てないからその分遅れは絶対にあるだろうし…

「行ってくるね、これも監督の仕事だから」

「アンタが行くなら行く」

「あっ、オレも」

「悪いんだけど、俺は部屋に戻らせてもらってもいいかな?体調が悪くてね、少し休めば良くなると思う」

「わかりました、お大事にしてください」

「茅ヶ崎さん、後で部屋に飲みもの持っていきますね」

「うん、助かるよ」

そう言って茅ヶ崎さん以外のメンバーで部屋の前まで来たがどうやら返事がなく慌てだした。たぶん…死んだりしてはいないと思うけれど…寝不足が酷かったみたいだしただ、眠っているだけなんじゃ…と伝えようとしたが虚しくスルーされる。

「あれ」

真澄が指を指した方を見れば、かけたー!!とノートパソコンに書かれてあった。書き終わったんだ、すごい…まさか、たった1週間で脚本を書き上げれるなんて本当に凄い。

「かけた…?かけたって…脚本が書けたって事!?綴君!」

「咲也、眠ってるだけだから大丈夫だよ」

「ちゃんと、書き上げたんだ…」

「ちゅんちゅん、ちゅんちゅん、綴、起きるのデス」

「このまま、寝かせておこう?きっと寝ないで頑張ったと思うから」

いづみさんがそう言って全員で微笑む。本当にお疲れ様だ。脚本を読ませてもらうのが本当に楽しみだ。つんつんと頬をつつくシトロンさんも嬉しそうで咲也なんて目がキラキラしている。

「そうだね、目の下にビックベアーだよ」

「はい、綴さんには私が付いていますから安心してください」

「ありがとう、ゆっくり休ませてあげて」

「わかりました」

サラサラと綴君の頭を撫でれば気持ちよさそうにスリスリと寄ってくる…犬みたいだ。大型犬…ちょっとゴールデンレトリバーに似てるよね…本当にお疲れ様…。

「んんっ…ん?」

「あ、綴起きた?」

「脚本!!」

「大丈夫だよ、今みんなで読んでると思う。無理は禁物だから、飲み物入れて置いたからゆっくり飲んで?」

「あ、ほんとごめんっ!ありがとう」

「ふふ、そんな謝らなくてもいいのに。お疲れ様。1週間で書き上げるなんて本当に凄いよ」

「ありがとう…本当に無我夢中で…夜食とかもありがとう…しかも、膝枕まで…本当にごめん…」

「私がしたくてしただけだし、気にしないで?もふもふも堪能させてもらっちゃったし」

「え?もふもふ?」

「はい、もふもふさせてもらいました」

「え?なにしたの?俺の顔に落書きとか?」

「ふふ、秘密です。皆の所に行こう?よいしょっと、立てる?」

「うん、ありがとう」

少しフラフラしている綴の手を取って稽古場へと向かう。印刷は支配人がやってくれるそうで嬉しそうに印刷している姿が目に浮かぶ。

綴はフラフラしていてしんどそうだが清々しい表情ではぁ、と深呼吸した後に稽古場の扉を開いた。

目の下にビックベアー

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