再熱

万里が行きそうな所を探すがなかなか見つからない。友達や知り合いなどに連絡してみても知らないとだけ帰ってきた。

あぁ、もう!どこに行ったんだ!!そんなに遠くは行ってないと思うんだけど。あーもう!摂津万里!!いい加減にしてよ!

「万里っ!」

「……夏希…お前なんでこんな所いるんだよ」

「私にだってわかんないよ!何辞めちゃってんの!万里のバカ!!アホ!!」

「相変わらず、ボキャブラリー少なすぎんだろ」

「うるさい!本気で辞める気なの!?」

「だから辞めるって言ってんだろ!しょうもねぇ事に拘るのは辞めたんだよ!俺はあいつに勝った!」

「勝ってないよ!万里は負けてるもん!いい加減認めなよ!」

「うるせぇ!辞めるっつてんだろ!」

「ねぇ、万里!やめるのをやめて…私はもっと万里と一緒にいたい…万里の傍離れたくない、やめてほしくない!ずっと!ずっと、ずっと一緒にいたい!!」

嗚咽も止まらないし、涙も止まらない。ねぇ、万里…万里はさずっと輝ける場所探してんだしょ?なにもかも完璧にこなす万里はきっととっても退屈な日常だったのだと思う。だけど、そんな事ない、この世界は上には上がいて、たくさんの人の人生があるの。

「わ、わかったから、な?一旦落ち着け、おまっ、すっげぇ事なってんぞ」

万里だけしか見えてなくて万里に言われ周りを見渡せばギャラリーが出来ていて我に返った。うん、ここは天鵞絨だ…どうやらストリートACTと勘違いされたようで拍手される。場所を人気の無い暗い公園のベンチに2人で座る。

「万里のせいだから…」

「わかったわかった、悪かった…泣くのは反則だろ」

「うるさい、ほら、早く行こう」

「行くってどこに?」

「ポートレイト見に」

「はぁ、いやだから、兵頭には芝居で余裕で勝ってるってわかってんだよなのになんであの野郎の芝居なんか見ねぇといけねぇんだよ」

「このままいなくなったら万里ダサいよ。結果知りたくないから辞めたみたいになっちゃうし…本当に十座に勝ってるか自分の目で確かめてみたら?それでも勝ってるって言うなら私はもう引き止めないよ」

「わぁったよ。確かめりゃいいんだろ」

うだうだうるさい万里と一緒に劇場へと向かう。席は無いから立ち見だがみんなのポートレイトを食い入るように見つめる万里は初めて出会った時のような表情で嬉しくなった。

みんなのポートレイトは雄三さんのアドバイスを受けてさらにぐっと良くなった。
この2週間で演技力を上げてきた分、説得力が増した。前回みた時より惹き込まれる。

劇場から出て2人で夜道を歩く…いづみさんからLIMEでアンケート前座投票の結果が送られてきていた。

「結果聞く?」

「……んなもん、聞かなくてもわかってる兵頭だろ……夏希っ…教えてくれ。どうしたら俺は兵頭に勝てる?」

「万里っ…まずは、芝居に真っ直ぐに向き合ってみて、それと負けたくないって気持ちはもう万里にあると思う」

「兵頭のポートレイト見てらなんかワケわかんねぇけど熱くなった。あいつに喧嘩売って負けた時と同じくへぇ、興奮した…このままじゃ終われねぇ、終わらせられねぇ」

万里の目付きが変わってとっても楽しそうででも何処か悔しそうでもどかしい気持ちなった。早く一緒に帰ってみんなで美味しいご飯食べて稽古して、みんなが本気でひとつになった公演を間近でみたい。

「……万里…一緒に帰ろう…」

「…今更だろ」

「みんなと一緒に謝ろう…私も飛び出してきちゃったから…ね?」

「……おう」

「私ね、万里がお芝居してるのすっごい好き、声もよく通るしなにより上手だし!それにさ、似合うよね。ルチアーノ…ほんと、万里のための役だよ…」

「俺やっぱ…お前の事…好きだわ」

「うん、私も万里が大好きだよ」

ちげぇよ…バカ

「んっ?なんか言った?」

「いや、今日月めっちゃ綺麗だなぁって思って」

「わっ!ほんとだね~まんまる美味しそう」

「お前ほんと、それしかねぇよな…太るぞ」

「うるさい!」

再熱

- ナノ -