臣の過去

ーーあの日から、俺はあいつのかわりに生きている。

暴走族時代俺には相棒がいた。

当時西東京最強と言われた"ヴォルフ"のW総長として名を馳せた"狂狼"の臣と、相方の"狂狐"の那智。

誰が敵で誰が味方かも分からない激しい抗争の中でも、那智だけには背中を預けられた。

唯一無二の信頼出来る相棒だった。

そんな那智がある日、自分には子供の頃からの夢があると柄にもなく照れながら教えてくれた。

「俺みてぇなのが見ちゃいけない夢だって分かってはいる。でも、諦めらんねぇ」

そう話す那智に夢の内容を聞いたが、結局ははぐらかされた。いつか吐かせてやろうと思っていた矢先のことだ。

2人でツーリングしていた時に、対立していたチームに襲われた。

バイクは横転し、投げ出された俺は全治1ヶ月顎には消えない傷を負った。

そして、那智は打ち所が悪く、出血多量で病院に搬送された直後に亡くなった。

俺は体が動くようになると、一人で那智の弔い合戦に向かった。俺たちを襲ったチームを壊滅させると、同時に"ヴォルフ"を抜け、暴走族との関わりも一切絶った。

バイクも喧嘩もやめて、普通の学生と過ごす毎日…何をしてもどこか熱くなれない自分がいた。

喜びを感じる事に無意識に罪悪感を感じるようになっていた。

毎年、那智の命日には墓参りに行っていたが、今年は偶然那智の両親に会った。那智の葬式で会った以来だ。

なんて謝罪すればいいのかわからずにいた俺に、那智の両親は懐かしそうに話しかけてくれた。

「那智もあんなことにならずに、伏見くんみたいにちゃんと更生してれば、今頃舞台に立ってたかもしれないのにね」

「え?」

「あら、聞いてなかった?あの子ね、子供の頃から役者になるのが夢だったのよ。あんなふうにぐれちゃった、芝居を観に行くのが好きなところは変わらなくてね」

それを聞いた途端、いつかの那智が照れくさそうな顔が脳裏によみがえってきた。

なんの夢もなく、ただ無為に日々を過ごす自分が生き残って、未来に夢も希望も持っていた那智が死んでしまった。その事実に打ちのめされる。

そうして考えた末に、役者になる事を決意した。あいつのかわりに。それで少しでもアイツが浮かばれればいいと思った。

「…だからこの夢は俺が見てる夢じゃない。あいつのかわりに見てる夢なんだ…でも、十座を見てるとそれが心苦しくなる」

「…どうして?」

真剣に、真っ直ぐ俺を見つめる夏希の瞳に俺がうつる。そんな夏希を 撮りたいと思ってしまった俺がいる。

この目に俺は弱い…真っ直ぐで真剣で全て見透かされてるいうような…だけどとっても綺麗だ。

「あいつは真っ直ぐな気持ちで、芝居に賭けてる。誰よりも真剣で誠実だ。他人の代わりに役者を目指して、罪滅ぼしで芝居をしてるってバレたらどう思うか…アイツに似てる十座に軽蔑されるのが怖い。それが怖くて、優しくしてるだけかもしれない」

「本当にそうかなぁ…」

「え?」

「確かにさ、きっかけは亡くなった親友だったかもしれない…だけど今も本当にそれだけの理由で臣が芝居してるとは私は思えないなぁ…臣は、真剣だと思うよ…それにさ、臣が芝居してる時楽しそうだなぁって私は思ってた」

「俺は…」

「罪滅ぼしだったとしても…臣が真剣に取り組んでたのは私は知ってる…その夢は親友の夢と臣の夢じゃダメなのかな…?2人の夢…臣自身の夢でもあるよ?」

「……そうかもしれない…今はアイツだけじゃない。俺の夢でもあるのか…本番のポートレイト親友の事も入れようと思う……きっと、1歩前に進める気がするんだ」

「うん!臣ならきっとかっこいい芝居するんだろうなぁ」

コーヒーをゆっくり飲みながらにこっと優しい顔で笑う夏希 の頬を撫でた。なんだか、みんなが夏希 に惹かれていく気持ちが少しわかった気がする。

「ありがとう、夏希 ちょっとすっきりした」

「どういたしまして…あ!みてみて、スコーン焼けてきたよ!」

「そうだな」

「美味しそうだねぇ~臣が作るスイーツ大好き~」

「俺も大好きだ」

「え?」

「あ、夏希が 作るスイーツな」

「ふふふ~ありがとう!十座のにはたっくさんジャムとホイップ入れてあげよう!」

「そうだな…なぁ、夏希…お前は居なくならないでくれよ…」

そうボソッと呟いた俺を見ながら困ったような夏希は なんだか泣きそうな表情で笑った。
あぁ、やっぱり綺麗だなと…撮りたいと思ってしまう俺は性癖が歪んでいるのかもしれない…

「ふふふっ、じゃじゃーん!」

「手?」

「うん、私ね生命線めっちゃ長いから大丈夫!そういう臣こそ私より先に死んだら許さないんだから!」

「ああ、頑張らなきゃな」

「スコーン美味しそう~臣!私にもホイップ増し増しで!」

臣の過去

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