歴然の差

「ーーそれじゃあ、一旦ここで休憩ね」

丁度休憩に入ったみたいで良かった。雄三さんが突然アポ無し訪問されたのだ…まぁいつもの事だし指導してもらってる側がそういうのは失礼かもしれないが、出来れば連絡もらえると大変助かったりする。

「よう!」

「あれ?雄三さん、こんにちは」

「様子見に来てやったぞ、ポートレイトの進みはどうだ?」

「まぁまぁっすね」

「一応はだいたいはできたッス」

「…俺も」

「俺も出来ましたよ」

「んじゃ、中間報告ってことで、見せてみろ。1人ずつ劇場呼ぶから他の奴らは外で待機。最初は十座からな」

「っす」

「おい夏希 お前どこに行く?お前もこいつらのポートレイトを見ろ」

「えぇ…わ、わかりました」

雄三さんと一緒に部屋から出て劇場へと向かう。万里大丈夫かな…昨日そういえば手つけてないって言ってたけど…あの、バカちゃんとやったのだろうか?

「………はぁ…」

「ふぅ…」

雄三さんもいづみさんも表情が険しい。そりゃそうか…こんなに出来に差が出るとは思わなかった。演技力以前の問題が浮き彫りになりつつある…うーん。

「どうだ?」

「そうですね…すごく、分かりやすかったです」

「夏希 は?」

「雄三さんがこの課題を選んだのがよくわかりました」

「だろ。後は、どう指導していくかだ。気合い入れろよ」

太一がみんなを呼んで部屋へと戻ってきた。この中間報告は万里にとっては許せない結果になるだろう…万里の事だやめるとか言い出しかねない。

「よし、集まったな。それじゃ、この時点での結果を発表する。まず、いちばん良かったのは十座だ」

「は?」

「え…?」

「左京と僅差だったが良かった」

左京さんと十座は、芝居への強い思いからずっと目を逸らし続けてしまった後悔、という点では似てた…でも十座のポートレイトはもう同じ後悔しない、っていうのが個人的にすごくグッときたのだ。

「おいおい、本番は投票制だろ、アンタらの好みで順位なんて決めても意味ねぇじゃねーか」

「はっ、好みで決めたと思ってんのか」

「違うって言いきれんのかよ」

万里は十座が1位と言うのに驚きが隠せない、そして苛立っている。また、負けたから…?そんな万里は雄三さんにかみつく。

「というか、万里くんのは…だふん全部作り話だよね?」

「…お前も気付いてたか」

「なんで、そんな事わかんだよ」

「おめぇのがダントツで薄っぺらかった」

「は?アンタらが俺の人生の何知ってるっつーんだよ。内容も構成も5分きっちりまとまってただろ」

「つい、この間お芝居を始めた人の実力としては、申し分なかったりでも、私も十座くんのポートレイトの方が良かったと思う」

「……審査する奴がセンス0かよ普通、100人中100人がそこの大根より俺選ぶだろ」

「まぁ、たしかに当日勝敗を決めるのは観客だ。俺じゃねぇ。だがな、断言してもいい。おめぇ…十座に負けるぞ」

「ちっ…」

「ちょっ、万里!待って」

「ほっとけ、自分でわかるまで、どうしようもねぇ」

「十座良かったとはいえ、まだまだ荒削りだ。特に演技に関してはお粗末としか言いようがねぇ。これからも芝居の稽古きっちりやっていけよ。次は左京おめぇのは最後まで後悔だけで終わってるとこが十座との差だ。抜け出せてねぇ、どっか諦めてんだよ。もっと前に出てこい。自分のやりてぇこと出せ」

「……おいおい高校生と張り合えってのか」

「お前に必要なのはハングリー精神だ。枯れたふりしてんじゃねぇぞ坊主」

「その次は順位的には太一と臣、ほぼ横並びだ。まず太一、おめぇのは万里と違って嘘じゃないだろう。ただ、さっきのが人生最大の後悔だ?笑わせんなもっと己をさらけ出すことを考えろ」

太一のは好きな女の子に素直になれなかったって話だけど…たしかにインパクトには欠けるかもしれない。

「次に臣、おめぇのは、たしかに人生最大の後悔に触れてはいるんだろう。ただ、本質は外している違うか?舞台を舐めるな、自分を隠して立てるような場所じゃねぇんだよ、覚悟決めろ」

「…はい」

「以上、各自本番までに仕上げてこい」

そう言って雄三さんを見送る。うーん、今日は一段とキレがあったなぁさすが雄三さん。

「おい、夏希…お前摂津と親友らしいな?」

「え、あ、はい…」

「アイツ、芝居に本気になったら化けるぞ」

「え?」

「じゃあな」

本気にさせれたらとっくに本気にしてるってば…雄三さんも私に無理難題押し付けるんだから…はぁ…談話室へと入ればみんないつもこの時間はまったりしてるのに今日は、ポートレイトにかかりっきりだった。まぁ、そりゃそうか。

「夏希 」

「なに~?」

「これからスコーンを焼こうとおもうんだけど、もし時間あったら手伝ってくれないか?みんな頑張ってるから、夜食代わりに差し入れしようかと思ってさ。夏希 も食べるだろ?」

「え、いいの!?もちろん!」

確かにスコーンは夜食に最適だ、すぐに作れるし美味しいし、甘いしそれに腹持ちもいいもんね。きっと主に十座に差し入れかな?

「臣…何かあった?」

「ん?」

「傷…触ってたから…痛む?」

背伸びして傷痕に触れようとしたが、臣が高くって届かない。そんな私に臣は困ったように苦笑いする。

「はは、ほかの男にはしちゃダメだぞ。……十座がな3年前に死んだ親友に似てるんだ」

「……言いたくなかったら無理に言わなくていいんだよ」

「いや…夏希…聞いてくれるか?」

「…うん」

歴然の差

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