不器用な優しさ

「はぁ…で?お前は、何時になったら親御さんと連絡が取れる?毎度毎度居留守使われても困るんだよ…で?男と同棲してるって話も耳にしたけど…お前未成年だろ?」

道徳的に尚且つ教師的にアウトな部分が詰め込まれたような質問だけどどう言い返そうかと考えたがやめた、相手にする方が無駄だ。

「おい、聞いてるのか?何時になったら進路三者面談に返事がくるんだ?」

「えーと…お話した通り、父と母は海外にいて」

「嘘つくなって言ってるだろ!いい加減にしろ。お前はそういう顔して男を誑かしてその男の家に転がり込んでいる…違うか?」

人の話を最後まで聞きなさいと習わなかったのだろうか?そして近いし…ほんと嫌になる。流石、学校一嫌われている教師だけの事はある。そもそも女子高生に誑かすだとか、家に転がり込むとか使っていい言葉じゃないでしょ…

「父と母は来れません。大学にはいくつもりです。だけどまだ決まってません」

「あのなぁ!いい加減にしろ!!こっちも暇じゃねぇーんだよ!!」

バンっと大きな音が鳴って、思い切り机を殴った音だとわかるまで少し時間がかかった。だからこの教師は嫌いなのだ、直ぐに物にあたるから。

「しつれいしまーす。でっけぇ物音聞こえたんで誰か暴れてると思ったらお前かよ」

「万里…?」

「え?夏希 暴れたわけ?やっべぇな」

「私じゃないし」

「なんだ、摂津かお前いきなり入ってきたら驚くだろう?碓氷この話はまた今度2人っきりでしよう」

万里の登場にそそくさと進路指導室から出ていった。万里は困ったような表情しながら私を見つめる。

「また、セクハラされてたのか?」

「はぁ…いつもの事だしね…万里来てくれてありがとう。なんか、イライラしてたのか机思いっきり殴ってたわ」

「ほんと、あいつキモイわ。俺なら無理、つーかビビるくらいならすんなよ…」

「そうだよね…はぁ…万里にビビるんだから左京さん来たらどーするんだろ?もっとやばそう」

「ははっ、確かになぁオッサン顔やべぇもんな」

とまぁこういう事があったと至と万里に愚痴る…なんだか、103号室に集まる事が日課になりつつある。そして私も結局ブラウォーのメンツに加えられている。

「そういや、夏希 明日三者面談だろ?」

「え、あぁまぁね」

「へー、三者面談とか懐いな、誰来んの?」

「私は誰も…お父さんもお母さんも海外だし来れないからさ」

「あぁ、そうだったね。何時から?俺行ってあげようか?ほら、俺婚約者だし?」

「え、至が来るの?仕事でしょ?いいよ」

「こいつの時間は15時ッスよ」

「あぁ…マジか有給取ろっかな」

「いいって、ちゃんとお仕事してよ、気持ちだけで有難いし。しかも今回で有給使っちゃったら来月のランキング戦で使えないよ?」

「なる。忘れてた」

あれから昨夜はゲームを深夜までやってしまったせいか、めちゃめちゃに眠たいが三者面談は免れない…めんどくさい。

「結局お前一人か…で?大学は行くって言ってたがそんなフラフラして馬鹿みたいに男と乱れた生活を送って大学なんて行けると思うなよ」

「いや、乱れた生活って…」

「お前、校内中の噂になってるんだぞ?パパ活してるとか、夜な夜な違う男と歩いてる、それにヤクザとも関係持ってるらしいな…まぁどうせお前がその顔と体を利用して男を誑かしてるのは間違いなんだろうがな」

「なっ…違います」

「違う?そんな、顔して教師を誘ってるじゃねぇーか!」

「誘ってる…?もしかして、数学の谷口先生の事でしたら誤解です。分からないことがあったので聞いていただけで!」

「はぁ!?毎日数学準備室に出入りしてるの知ってるんだぞ!お前はっ!」

今回は流石に頭に血が登ったように怒りが抑えられなくなって腹が立った。なんで、そこまで言われなきゃいけないのだと。ちゃんと、学校には劇団寮の事も申請したし話した。谷口先生との事だってただ、分からない問題を聞いていただけだ。

「夏希 悪い、遅れた」

「左京さん遅いっすよ、じゃあ夏希 後でな」

「で、うちのものが、男を誑かしたりその数学教師とやらと関係を持っている?パパ活…それに、なんだ?もう一度最初から聞かせて貰えるか?」

そして地獄のような、1時間が終わって教室から出た頃には外はすっかり薄暗くなっていた。あぁ、いづみさんが心配するかも…

「はぁ…お前あんな奴に目つけられてたのか。つくづく思うがお前は男運無さすぎだな。まぁ、あれだけ言ったんだ今後言われねぇかもしれねぇがまた何か言われれば言ってこい、黙らせてやる」

「ありがとう…ございます。その、三者面談…ずっと誰も来て貰えなかったから嬉しい、です」

「ふっ、またちゃんと言えば来てやる。監督が行く予定だったんだかな…俺が来た。万里に感謝しろ」

「うん…ありがとうございます」


「ふーん、でマジで左京さん召喚したのか、めっちゃ見たかったわ。顔死んでた?」

「うーん、流石に可哀想に思えたけど今までのが腹立ち過ぎてちょっとざまぁみろって思っちゃった」

「マジでアイツ口だけっすからねぇ…そろそろ俺も苛立ってたんで丁度良かったすわ」

「私が男誑かして男の部屋に転がり込んで、数学教師と出来てて、パパ活しててってなんかめちゃめちゃ盛りだくさんで…それをいっこいっこ左京さんが詰めてた。ぶっちゃけちょっと怖かったよね…本場を見ちゃった」

「あーマジか…次三者面談俺行くわ。んで、婚約者って言ってそいつ混乱させよう、つかマジでぶっ殺す」

「至さんマジギレじゃないっすか。さっすが夏希 クラスタ」

「はいはーい、じゃあ私先に寝るからおやすみ~」

103号室から出て談話室へと戻る。喉乾いた…2人に付き合ってたらこんな時間だ…いつもついつい夜遅くまでやってしまう…やめなきゃなぁとおもいつつやめられない。

「ふぁ……あれ、左京さん」

「はぁ…夜更かしするな」

「ごめんなさい、仕事帰りですか?」

「まぁな、ちょっとやり残したことあったからな」

「おかえりなさい。私の三者面談来てくれたからですか?」

「まぁ、な。ほら」

手渡されたコンビニの袋を受け取って中を見てみるとあの日割れてしまった限定のおもちグッズのマグカップが入ってた。

「え、これ、どうしたんですか?」

「まぁ、褒美だたまにはいいだろ?」

「これ…どこにも売ってなくて…その、諦めてたんです。嬉しいです、ありがとうございます!」

「お前は、無理しすぎる所がある。そして悪い癖だ我慢するだろう?前にも言ったが女は少しワガママくらいがちょうどいい。お前はもう家族なんだろう?なら甘える事をきちんと覚えろ、わかったならさっさっと寝ろ」

「左京さん…ありがとう、ございます」

そう言われて涙が溢れた。確かにずっと、気を張っていたのかもしれない。劇団のこと、家族のこと、万里のこと、学校のこと、進路のこと…それを左京さんは気付いてくれたのだ。

私を困ったように抱きしめ頭を撫でてくれた左京さんに少しワガママ言ってみようと思った。

不器用な優しさ

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